今月のプラチナ本 2011年8月号『いつか見た青い空』 りさり

今月のプラチナ本

更新日:2012/2/6

いつか見た青い空 (ウィングス・コミックス)

ハード : 発売元 : 新書館
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:りさり 価格:1,026円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『いつか見た青い空』

●あらすじ●

女の子ばかりの児童養護施設で幼少時代を過ごした日々を主人公「さり」の視点で映しだし鋭い筆致で描いた、著者の私小説コミック。1歳から施設で暮らし外の世界を知らない「さり」は、小学校2年のときに初めて「募金」の意味を知る─(「募金」)。誰よりも妹を可愛がる姉と甘えんぼうの妹。施設で暮らすそんな仲良し姉妹にある日母親が面会に訪れるが……(「ふたりぼっち」)。幼い「さり」はどうしても「妹」がほしくて、仲良しの年下の女の子を「妹」だとシスターや保育士にアピールする─(「姉妹になりたい」)。ブログで発表された作品に、単行本描き下ろしを加えた全8篇を収録。

りさり●一歳から九歳までを児童養護施設で過ごした女性。その後父子家庭、母子家庭を経験する。ブログ「ぬるく愛を語れ」の管理者。隔月刊コミック誌『Wings』12月号(10月28日発売予定)で新作を発表予定。

『いつか見た青い空』
新書館 998円
写真=首藤幹夫
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編集部寸評

いたいけな瞳に映る青空はどこまでも綺麗な

それは、もう戻ることのできない幼き日々への憧憬なのか、それとも女の子だけの児童養護施設が育む慈愛の情なのか。何だろう、本書を読みながら何度もじんとした。きらきらした子供の世界をかわいらしいタッチで描きつつも、作品の根底に流れる静かな悲しみのようなものに胸が締めつけられる。単なるコミックエッセイではなく、まるで文学作品のような複雑味を醸し出す。作中で著者は言う。「施設で暮らしてるって事で自分を可哀想がったりしない。自分を不幸だと思ったことも無い。それどころか毎日楽しい」と。傍はたからは可哀想に見られるが決してそうではない。ただ、早く大人にならなければいけないことを皆知っていただけだろう。複雑な環境の中、無垢なままではいられない。気付き、傷つき、抱きしめられながら世界と向き合っていく子供たち。そのとき、いたいけな瞳に映るのは青空だった。それが複雑味の正体。本作をWEBから発掘した編集者にも拍手を。

横里 隆 本誌ご隠居兼編集人。ダ・ヴィンチ電子部= http://blog.mediafactory.co.jp/dd/ でコラム連載やってます。「キャプテンコラム」ぜひ読んでください~

誰もが記憶の底にうずめた“衝撃”

本書の帯には「私小説コミック」とある。だが、なんだかマンガっぽくない。このなつかしい読み心地は……マンガじゃなくて絵物語のそれだ。人物の表情や動きは写実的で、マンガ的な誇張は少ない。マンガならセリフのやりとりや表情で描かれる感情は、ト書きの文章で説明される。このノスタルジックな手法が、子ども時代を振り返る作中の視線とぴったり合っているし、読む者の記憶を刺激してくる。そして思い出されるのは、子どもが“社会”へと参入したときに受けるショックだ。たとえば、きょうだい・親子・家族という概念を初めて理解したときの驚き。大人の意図と子どもの気持ちがすれちがうときに覚えた、不条理さ。それは、どこで育とうと、誰もが経験してきたものだ。だからこの本は、児童養護施設限定の物語ではなく、誰もが胸にうずめた記憶に共鳴する。そしてそれゆえに、最終話のシスターの呼びかけが、すべての読者の心を揺さぶるのだ。

関口靖彦 本誌編集長。震災で崩壊した自宅書庫を、ようやく片づけました。なつかしのゲームブックがざらざら出てきて、20年ぶりにサイコロを振る日々です

愛情に対してビビッドな彼女たち

児童養護施設を描いた話で、さりが施設の生活をとても楽しんでいる点がまず新鮮だった。施設に入る子どもといえば、親の不在や虐待などが主な理由で精神的に追い詰められている子が多いのかなあと思っていたが、それだけではないらしい。現代は子どもが親と暮らせない理由もまたさまざまなのだ。興味深かったのは、どんなに施設内で仲良くしていても一旦施設から出てしまったら、関係はそこで終わりにされるというエピソード。ここでの日々がどんなに楽しくても、それは良い思い出として封じ込められる。幼いながら、さりの観察眼の鋭さには驚かされる。同じ施設の女の子たちの行動や視線、感情の揺れなどを細やかに掬いとるだけでなく、分析し、考察する。もしかしたら、これはさりに限ったことではなく、こうした環境に育った子どもたちに共通することなのかもと思った。愛情の流れに対してビビッドに心が揺れる。無垢で純情な彼女たちが眩しかった。

稲子美砂 福島取材の当日に、詩人の和合亮一さんに教えていただいたお店がすごく美味しかった。福島駅近くの居酒屋「蘂(はなしべ)」、福島に行かれる方はぜひ

その人自身に寄り添えますように

私たちは、自分と違う境遇にある人の心情を勝手に推し測りがちだ。「あの人は辛い体験をしたのに耐えていてすごい」そう考えるとき“かわいそうな人”を見つめる気持ちはないだろうか? きっとある。相手の立場に立ってものを考えるのは難しい。ほとんど無理といえるだろう。しかし、目の前の相手を見つめるとき、自分の目線がどこにあるのか無自覚であることのほうが罪深いのではないか。いまそこにいるその人の笑顔を、色眼鏡をかけずに感じたい。そう思った。

服部美穂 震災特集、内田樹×名越康文×橋口いくよ緊急スペシャル鼎談「原発と祈り」続きはWEBダ・ヴィンチで公開!!

子供たちの細やかな感情を描く

ブログで話題になった本作は、テクニック的な面では未熟に思える部分が多い。だが、かえってそれが本書の魅力に繋がっている。作中の子供たちは、己の境遇を悲観するわけではない。純粋にいまの環境を受け入れるのみ。シスターたちの愛を受けて伸び伸びと育てられる彼女らは、まだ広い世界を知らない。“親”という概念すら知らない幼子の細やかな感情の揺れを、大人になった著者が鮮明に描きあげ、“こうした世界が確実にある”ことを静かに熱く教えてくれる。

似田貝大介『幽』15号発売中。今回も超豪華なラインナップになりました。本誌「ふるさと怪談2011」もお見逃しなく!

当たり前の空が目にしみる

児童養護施設で一緒に暮らした女の子たちとの忘れられない記憶、自身の体験に基づいた各エピソードからは、著者の計り知れない想いが切々と伝わってくる。「ふたりぼっち」では、家族と暮らした記憶を持つ姉と母親の記憶すらない妹の不安定な心のゆれが、「妹いじめ」では、集団生活のなかで妹にだけ辛く当たる姉の不器用な愛情が描かれる。光と希望を持ってやがて社会に旅立っていく子どもたちへのメッセージが、本書から溢れくる。あとがきの言葉が胸に響いた。

重信裕加 最近、蚊に刺される頻度が増えてきました。先日はとうとう、目の上を刺されてしまいました。週末でよかった。

すべての子どもに愛を

「裸の人形」「赤い靴」のエピソードが心に残った。娘に渡せない贈り物を、それでも買ってしまうお母さん。お母さんが自分の名前を書いて贈ってくれた赤い靴に強い愛着を残す娘。どちらも母子の愛があふれて切なかった。“わたしのもの”があるっていいな、と思う。私は長女だったこともあり、子どもの頃から当たり前のように〝わたしのもの?に囲まれていた。でも、そのひとつひとつに両親の想いがあったんだろうな、などといまさらながら、うれしくなった。

鎌野静華 10年ぶりに海で泳ぐ。もちろん日焼け対策はしていたけれど、それ以上に陽を吸収。いい歳して皮むけた……泣

あのころの日々を胸に抱いて

著者が児童養護施設で過ごした小さいころ。「お父さんもお母さんも知らなかったけど、シスターや先生や多くの幼馴染たちと楽しく過ごした」毎日をふりかえるその筆致は、みずみずしくて、あのころの気持ちを思い出させてくれる。胸が締め付けられるような出来事もあるけれど、それでも周りの人たちと笑っていられた日々。その「いつか見た」風景と、誇りに思える日々を胸に抱いて、この一冊を紡いだ著者に感服した。「愛する姉妹たちへ」という献辞がいいなぁ。

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著者の記憶力と観察眼に感服

「赤い靴」のエピソードを読みながら、昔お父さんにおねだりして買ってもらった真っ赤な洋服を思い出した。柄やフリルの感じまで鮮明に。そして、浮かび上がるのは親に大切に育ててもらった日々だ。著者による瑞々しい観察眼が、読むものに子どものころの大切な原風景を思い起こさせてくる。兄弟とケンカして仲直りしたこと、初めて友だちができた日。あの頃は気づかなかったが、子どものときに見た世界は小さな奇跡の連続で、かけがえのないものだったのだ。

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極上の回想日記

著者が幼少時代を過ごした児童養護施設で見聞したことを綴った本作は、ぎっしり書き込まれた回想日記である。著者自身のことはそこそこに、施設でともに暮らした少女達の姿が淡々と描かれているのだが、“今”を生きる著者の考察がじつに的を射ていて考えさせられるシーンが多かった。それほどに著者は自らの過去をしっかりと見つめ、自らの中に刻み込んでいるのだ。日々を漠と過ごしがちな私にとってそんな本作は、自戒を込めて本棚においておきたい一冊である。

川戸崇央 ここで書いたこと、意外と読まれていて「お前ん家、紫色なんだろ」と前号が出てから言われるようになりました

素直に感謝できる心に感銘

「募金」というエピソードがある。児童養護施設で育った著者が幼少時代、「施設の子供だから」という理由で、学校の先生に寄付金を返される話だ。「私だったら、絶対ひねくれるな!」と思う。けれど著者は最後にこう述べる。「(寄付金という)善意を食べて育った私は善意のかたまり」。ストレートにこう言えるこの心の綺麗さったらない。だってそういう善意を素直に感謝して受け入れることって勇気がいるはずだから。いや、「勇気がいる」って思うこと自体が恥ずかしい概念なのかも。

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