2010年08月号 『絶叫委員会』穂村弘

今月のプラチナ本

2010/7/6

絶叫委員会

ハード : 発売元 : 筑摩書房
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:穂村弘 価格:1,512円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『絶叫委員会』

穂村 弘

●あらすじ●

映画や小説、歌謡曲の歌詞、電車の中の他人の会話、友人との何気ない言葉のやりとり。「でも、さっきそうおっしゃったじゃねえか!」(「名言集・3」より)、「日本人じゃないわ。だって、キッスしてたのよ」(「OS」より)、「嚙みつきますから白鳥に近づかないで下さい」(「人生が変わる場所」より)などなど、─町に溢れ、偶然生まれては消えてゆく無数の詩。不合理でナンセンスで真剣で可笑しい、天使的な言葉たちについてのエッセイ集。

ほむら・ひろし●1962年、北海道生まれ。歌人。歌集に『ラインマーカーズ』『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』など。ほかの著書に『人魚猛獣説』『整形前夜』『もしもし、運命の人ですか。』など。翻訳書、共著も多数。短歌評論集『短歌の友人』では、伊藤整文学賞を受賞した。近刊は、絵本についての文章を集めた『ぼくの宝物絵本』。本誌にて「短歌ください」を連載中。

『絶叫委員会』
筑摩書房 1470円
写真=下林彩子

編集部寸評

言葉のエロスに敏感で素敵な穂村さん

穂村さんはエロティックだ。それもとびきりの。見た目ではない。こんなに言葉に敏感に反応してイキまくってしまう人はいないから。穂村さん、それって何ですか? ちょっとは演技ですか? イッたふりとか? でも、たとえ演技でもやっぱりエロくて素敵です。美容室で投げかけられる「おかゆいところはございませんか」という言葉に反応してもやもやする穂村さん。「いつもかゆいんだけど、その場所を伝えるのが恥ずかしく、しかも難しい」と言う。確かに! そして、どうせなら「小腹が減っていませんか」とか「エロい御気分じゃありませんか」とサービス範囲を広げた言葉を投げかければいいのにとのたまう。「エロい御気分じゃありませんか」「そういえば、ちょっとむらむらします」と美容師さんとやりとりする穂村さん。ほら素敵でしょ。日々言葉の渦の中にいて、感覚麻痺で不感症に陥りがちな僕たちの、言葉の性感を間違いなく上げてくれる。エロエロだぁ。

横里 隆 本誌編集長。10年以上編集部を支えてくれた同僚が若くして逝去した。今までありがとう。あなたが生きた証はこの『ダ・ヴィンチ』です

穂村さんがモテる理由

表紙カバーにある「でも、さっきそうおっしゃったじゃねえか!」。ああ、私これ言いそうと思った。咄嗟の言葉って想像以上に、その人を露出させてしまうものなのだ。 それはさておき、本書にはホントに爆笑させてもらった。穂村さんが拾ってきた言葉の数々はそれ自体でも不思議な違和感があっておもしろいのだが、さらにそれを爆弾級にしているのは穂村さんのツッコミ。さまざまな角度から力の強弱も自在に突っ込んでくる。たとえば〈「ありがとう」たち〉の章―“駅のトイレで、初めてこの言葉をみたのはいつだったろう。「いつもきれいにご利用いただきありがとうございます」。衝撃を受けた。私に云ってるのか。私が「いつもきれいに」おしっこをしているところを誰かがみていた?”―この感度ってすごいなあと思う。さまざまな言葉から発せられる微妙な可笑しさを掬い取る穂村さんのセンス。モテたい男子はこれこそを学ぶべきです。

稲子美砂 鈴木成一さんの特集では、鈴木さん、重松さんをはじめ、多くの方にご協力をいただきました。ありがとうございました

よく観察しているなぁ、すごい

子どもと暮らしていると、大人の常識では想像もしないような文脈で「おおっ」と面白いことを言ったりする。たとえば?と問われると、いきなり言葉に詰まる。まあ、それが凡人らしいパターンだ。でも穂村さんは観察する、記録する、記憶する。校長先生が壇上で放った「みんな、空を見てみなにゃー」、集団の中の小学生ひとりが大声で叫んだ「マツダのちんこはまるっこいです」。どれも言葉を放った人の姿が目に浮かぶようで、笑いを誘う。でも、それだけじゃない。穂村さんの文章でそれらが語られるとき、言葉が力をぐんぐん増して、爆発寸前までパワーアップしていることが分かるのだ。そして、爆笑とともに、大爆発が起こっていることがわかる。いや〜、人の潜在能力というか、天使的言葉の出現力というか、すごいなと思うけど、それを観察している人がいるってことがもっとすごい。毎度思いますが、やっぱり穂村さん、面白すぎです。

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日常を切り裂くためのワンダー

以前、少女マンガの魅力について、穂村さんにインタビューさせていただいた。その際、お話の軸になっていたのが“共感”と“ワンダー”の対比だ。日常的な風景や感情が描かれた作品を読んで、「わかるわかる!」となるのが“共感”。うれしいし、安心する。それに対して、日常世界を切り裂いて飛び出すのが“ワンダー”。くらくらするし、ちょっと怖い。どちらが自分に必要かは、人によって違うだろう。一見平穏に暮らしているが、どこか息苦しい、まぶたがピクピクする、目の前にいる人と何をしゃべっていいかわからない。そんな日常を暮らしているあなたには(そして私には)、本書に収められた数々のワンダーが有効だ。駅、学校、喫茶店など、なんでもない日常の風景の中で、穂村さんが採取してきたワンダーな言葉。その言葉は爆弾のように炸裂し、一瞬とはいえ日常を歪ませる。その一瞬だけ、われわれは呼吸ができる。笑い声に似た音を立てて。

関口靖彦 穂村さんの弊誌連載「短歌ください」に、ぜひ投稿を! 日常を突き破るワンダーな言葉を、自ら結晶させる貴重な機会になるはずです


「先生、地球がホットです」が流行中

本を読んでこんなに笑ったのは久しぶり。しかも、一度だけでなく、何度読んでも笑えるし、むしろ読むたびごとに面白くなっていくのだから、大変お得な本である。私がクライアントだったら「でも、さっきそうおっしゃったじゃねえか!」と目の前で叫ばれたら、そんな彼のキュートな人柄に打たれて、前言を撤回してしまうのではないかしら。でもそれは、穂村さんフィルターがかかった状態でその情景を思い浮かべるから。穂村さんにかかると、世界はこんなにもへんてこで、愛おしいのだ。

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ディテールに潜む奇跡の結晶

「天然」という特殊な土壌では、不思議なズレを保った言葉がみるみると成長してゆく。ひとつの大きな間違いを正すことは簡単でも、細やかなズレによって形成された異形の言葉に対面したときは対処のしようがなく、ただ呆然と受け入れるしかない。羨望のまなざしとともに。それは間違いという次元を超えた奇跡ように思え、その人の歩んだ歴史がぼんやり目に浮かんでくるようだ。穂村氏が収穫した味わい深い言葉の数々には、人の人生が深く刻まれている。日常に満ち溢れた天然素材を満喫した。

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言葉ってすごい! 面白い!

穂村さんの言葉の観察力と、それを詩に昇華するやさしい視点に愛を感じました。たとえばクラスメイトの女の子が言った「先っぽがトッキントッキンに尖った鉛筆」。これには、なんかわかる、この感じ!と、思わず背筋を伸ばしてしまったほど。20年も前から「天使的な言葉」を書き留め続けてきた穂村さんとこの本の中の発言者たちに、ありがとうの気持ちでいっぱいです。自分のOSがサビかけているんじゃないかと不安になったときに読み返したい、そんな一冊でした。

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笑いが堪えられない幸せ

学生の頃、電車の中でマンガを読んでいて、どうにも笑いが堪えられず、不審者と化したことがある。本書の“天使の呟き”にある、シーズー犬のくだりを読んで、そのときの二の舞になりそうだった。笑いのツボは人それぞれで、芸人さんですら万人を笑わせることは難しいのに、穂村さんの打率の高さはすごいと思う。その言葉の背景に、笑いとは別の共感を見つけることができるのも、気持ちいい。ちなみに私が一番共感したのは“恋人たちの言葉・その2”のメーテル発言でした。

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彼岸に飛び越える無自覚の破壊力+(プラス)

ベタですが電車内で読んで大失敗。いやぁ、おもしろかった!! 「偶然性による結果的ポエム」の破壊力。当人は無自覚なのに、ぽんと彼岸に「飛翔」していて、耳にした人はおののいてしまう。でもさらに凄いのは、普通は「なんかいまのおもしろかった、びっくりした」で終わるところを、聞いた側の自覚的な視点を加えて開帳してくださるところ。決して「おもしろいでしょ?」とひけらかすのでなく、時にとまどい、時に憧れる穂村さん。そこにも見事にきゅんとさせられてしまったのでした。ぜひ。

岩橋真実 彼岸に飛び越えるといえば、皆川博子さんの『少女外道』が素晴らしかった…! 『幽』13号の工藤美代子さん「三島由紀夫の首」も必見です

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