2010年04月号 『ペコセトラ 渡辺ペコ短編集』

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/5

ペコセトラ (Feelコミックス)

ハード : 発売元 : 祥伝社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:渡辺ペコ 価格:1,028円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『ペコセトラ 渡辺ペコ短編集』

渡辺ペコ

●あらすじ●

デビュー作を始めとする、著者の初期から中期の8作品を収録した短編集。妻子持ちの仕事相手への恋心を描く「ジャグリング」、絵が好きな少女ときれいな叔母、その恋人のある夏の日を切り取った「わたしのおばさん」、一人で温泉旅に出た女性のある出会いと奮闘を描いた「N浜温泉紀行」、地方の大学受験生の妹と、鳴かず飛ばずで帰ってきた子役出身の兄が主人公の3回集中連載作「あに・いもうと」、高校をやめた少年の淡い恋心を活写した「台風クラブ」、親同士の再婚でできたゴスロリの妹との日々を、兄の視点で綴ったデビュー作「透明少女」、その妹に春が訪れる続編「たまゆら透明少女」、絵本について語ったエッセイマンガ「私の血肉となった本」を収録。巻末には、本誌編集長・横里からの“手紙”、著者自らによる全作解説も。

わたなべ・ぺこ●1977年、北海道生まれ。2004年、「透明少女」で、ヤングユー新人まんが大賞ゴールド賞を受賞し、デビュー。作品に『蛇にピアス』(金原ひとみ原作のコミカライズ)、『東京膜』、『ラウンダバウト』、『キナコタイフーン』(原案:はと実鶴)、『にこたま』など。

『ペコセトラ 渡辺ペコ短編集』
写真=冨永智子
祥伝社フィールC 1000円
advertisement

編集部寸評

第一期渡辺ペコの集大成的一冊!

「解説なんておこがましいけどお手紙なら……」と、本書の巻末にレター形式の文章を寄せた。オビにもコメントが載っている。そこまで関わっていてプラチナ本とは、あまりに身贔屓ではないかと言われても仕方がない。それでもやっぱりペコ作品はいいのだ。いいものはいいと伝えたい。前述の手紙にも書いたが、作中には少し不器用で、少し生きづらい人々が登場する。彼らは僕たちそのものであり、作品を通してペコさんは言う。「あなたも私もこんなにいびつで、世界はこんなにも理不尽だけど、受け止めて生きていけば、思いがけず小さな奇跡は起こる」と。描かれた奇跡の一瞬を“神が舞い降りる瞬間”と言いたい。そう、ペコ作品には、時間を超え、空間の広がりをとらえる象徴的な瞬間が描かれるが、そこに神が舞い降りるのだ。美しい。

横里 隆 本誌編集長。ペコさんの新刊『にこたま』も傑作! 既刊の『東京膜』もすごい!! ぜひぜひ読んでください。ペコリ

感情がメインなのにエンタメ

「2人前の焼き鳥を前に すずの器でアタマ冷やして どうしたもんかと考えている」(「ジャグリング」)、「ふやけたぬるいみかんは 昨日より甘い気がした」(「N浜温泉紀行」)など、主人公の感情に焦点をあてて終わる2作は文学のような余韻を感じた。ペコさんは、出来事というよりも気持ちの揺れを作品にしている人だ。結果的には「何も起こらない」けれど、そこに至るまでの心の機微を、絶妙な比喩や赤裸々な描写で表現してくる。その振り幅の大きさにエンターテインメイント性を感じる。加えてその読後感のよさと共感性の高さに。個人的な物語という点では紛れもなく少女マンガだけれど、きっと男性ファンも多いはず。本短編集では、一作ごとの切れ味が際立っていて、ユーモアってせつないなあとしみじみ思った。

稲子美砂 1泊2日で「秘境十津川村神納川体験」(本誌42P)をしてきました。いろいろご馳走さまでした。あと2日はいたかったです

じんわり思い出す、蒼い青春

「わたしのおばさん」が好きだ。おばさん、というのもいい。私も母の姉、つまりおばさんが好きだった。我が家のサラリーマン家庭と違って、商売をしている家の開放感、母に似ているけれど、でもちょっと違う私の理解者、それがわたしのおばさんだ。本文の「煙とまざった母の首すじのにおい 背中に回された指の力 それらは忘れた頃に不意にやってきて 甘くて苦いかすかな疼きを残して また消えてゆく」というネームも好きだ。それはふいに訪れる。雨上がりの湿った空気の中ではじめてひとり留守番しながら網戸越しにみた庭の風景とか、満点の星空と満月の海辺で恋人と過ごした時間とか。ペコさんのマンガを読むと、そんな時間が幸福な形で蘇ってくる。そしてじんわり温かく包み込まれて、人生、ちょっと得した気分になるのだ。

岸本亜紀 恩田陸『私の家では何も起こらない』増刷しました! 英国風ゴーストストーリーです。幽ブックスも始動!!

誰もが居場所を求めてる

読んでいる間じゅう、そわそわする本でした。好きな人には見向きもされない、頼りたい相手も実は不安定、一人でいようとしても落ち着けない、触れ合えたと思った人はいなくなる、周囲の期待には応えられない……どうにも居場所がない、いたたまれない。この感覚は10代のころ切実に抱いていて、当時は毎日がしんどかった。あの感覚をしみじみ思い出す……というほど今も落ち着いてはいなくって、ただ、いちいち気にしてると面倒だからフタをしてやり過ごしている。そのフタを、『ペコセトラ』はこじあけてくれる。帰る家があって、そこには同居人がいて、はたらく場があって、酒を呑む仲間がいる。そんなフタをあけてしまって、自分の心もとなさを再認識させてくれる。その痛みはきっと、新しく“生き直す”ための足がかりになる。

関口靖彦 本書収録作『たまゆら透明少女』の最後の1コマが大好きでした。「桜前線は今 なまはげの辺り」。素晴らしい余韻!

マンガが終わったあとのマンガ

子どもだったときに夢見てた未来より、もっともっと未来を今のわたしは生きている。と気づくと、かなわなかったことを想ってせつない気持ちになる。だけど、たくさんの思ってもみなかったことには、いいこともけっこうある。たとえば誰かのバイクの後ろに乗って海を走るようなマンガみたいな出来事だって。夢の時間が終わったあともまだ続いてる毎日が描かれていて、これはこれで悪くないよとペコさんは教えてくれる。

飯田久美子 サリンジャーが死んでびっくりしました。ずっと死なない気がしていたから。ものごとは終わるんだなと思いました

いま最も気になるのは渡辺ペコ

登場する女の人の目が印象的だ。ジッと見据えている。この目を知っている、と思う。女の子と女の狭間でゆらゆらしていたときの気分、大人の媚や嘘を冷徹に観察していた自分や、醒めたふりしてどろどろした感情を抱えていた自分、そんな自分や女友達とは対照的に、真っ直ぐで優しかった男の子たちに対する憧れ。思い出すときゅっと胸が痛くなるあの一瞬や、心に大切にしまっているあの一瞬を思いださせてくれる作品だ。

服部美穂 3月19日に真藤順丈さんのヒット作『地図男』に続く書物シリーズ第2弾『バイブルDX(デラックス)』が発売です!

兄だって色々と大変なのです

女性たちのセンチメンタルな思いがみっしりと詰まった本作。男の僕にはまるで縁のない物語かと思われたが、女性を通した男の姿が容赦なく描かれている。「ジャグリング」の彼が店を出る直前、一瞬の1コマに漲る緊張感。「わたしのおばさん」では、男の打算が崩壊する瞬間が。「あに・いもうと」の兄はだらしないくせに要領だけはいい。かくいう僕にも妹がいて、話の端々にいちいち納得させられた。ううむ、恐るべし。

似田貝大介 京極夏彦特集、必見です。漫☆画太郎さん×京極夏彦さんのモーレツコラボ漫画が読めるのは『ダ・ヴィンチ』だけ!!

様々な視点が交差するドラマ

『ラウンダバウト』もそうだが、登場人物の感情の描き方が上手い。思春期のむずがゆさや大人のモヤモヤとした気持ちのすくい方、登場人物たちの問いかけるようなするどい視点には、いつもドキリとさせられる。本作の「わたしのおばさん」の姪、「あに・いもうと」の兄、「台風クラブ」の強面のおばさんの視点もまたいい。人間模様が交差して、そこに何重にもドラマが重なる。だからきっと、また何度も読み返したくなる。

重信裕加 森崎博之さん出演の舞台『NECK』がすばらしかった。怖いけど、面白くて、やっぱり怖い。映像化が待ちどおしい


リアルな女子像かもしれません

好きな人ができたとき、そこへ至るまでの過程や今の自分の状況を冷静に考えると“あ〜ぁ、やってしまったなぁ”と思うことが多い。「ジャグリング」はまさにそんな私の心を代弁しているのではないか、と思うくらいのシンクロ度でした。年を重ねるにつれ、ジャグリングさえできなくなってしまうけど、佐倉さんはどうするのかな。自分にはできないことだから突っ走ってほしい、などと無責任な期待をしてしまった。

鎌野静華 3月といえば雛祭りですが、私の出身地は例年4月3日が雛祭り。寒冷な地域のため、桃の開花に合わせているのかも?

自分と「だれか」の狭間で

だれもが持つ鬱屈を、渡辺ペコさんは上手にすくいあげてくれる。隣の芝生はいつだって青い。だけど自分であることはやめたくない。そんな自己否定と傲慢のジレンマ。ああ、だからわたしたちは恋をするのだな、とおもう。それはなにも他人に、異性に限らなくて。兄妹のふたりも、幼かったしーちゃんもそうだった。いつだってみんな、自分と「だれか」の狭間でゆらゆら揺れている。そうやって「すき」を、知っていく。

野口桃子 ロスト・シンボル特集を担当したらワシントンに行きたくなった。特にスミソニアン博物館! アメリカ興味なかったのに


自分の気持ちと向き合うこと

あの人との座標平面で自分をどこに置くか。ペコセトラさんたちは自分の気持ちをごまかさない。恋心やもやもやを見つめられること。感情がヴィヴィッドであること。日々なんていくらでも無感動・無感情に過ごせるから、みずみずしく物事を感じられるのは世界を見つめる才能だ。ちゃんと“感じる”ことを大事にしていて羨ましい。「どうしても捨てることはできな」くて、落ちたボールも拾ってしまう佐倉にきゅんとした。

岩橋真実 本書推薦に「乙女度が低いのに意外」的発言をされました。いやその通りですが好きな人相手には割と乙女かと……多分

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif