2009年10月号 『ヘヴン』川上未映子

今月のプラチナ本

2009/9/6

ヘヴン (講談社文庫)

ハード : 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:川上未映子 価格:596円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『ヘヴン』

川上未映子

●あらすじ●

4月の終わりのある日、クラスメイトに「ロンパリ」と呼ばれ苛められる日々を過ごす“僕”のふで箱に〈わたしたちは仲間です〉と書かれた手紙があった。その後もぽつぽつ届く手紙。差出人はおなじクラスのコジマで、彼女も家が貧乏であること、不潔だということで苛められている生徒だった。手紙のやり取りを重ね、心を通わせる“僕”とコジマ。夏休みの最初の日、二人はコジマの提案で「ヘヴン」を見に行くことにする。夏のその一日を過ごした後も、“僕”はコジマのこと、学校のこと、斜視のこと、などを考える。そして、1カ月ぶりのコジマは、自分の家族のこと、神様のこと、自分が汚くしているのは「しるし」であること、などを語る……。夏が終わり、秋が過ぎ、おおきな事件もこえて、12月に“僕”が見た光景とは。著者初の長編小説。

かわかみ・みえこ●1976年、大阪府生まれ。24歳で歌手デビュー。2005年「先端で、さすわさされるわそらええわ」で文筆家デビュー。06年、随筆集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』刊行。07年『わたくし率イン歯ー、または世界』で芥川賞候補に。08年『乳と卵』で芥川賞受賞。

『ヘヴン』
講談社 1470円
写真=冨永智子

編集部寸評

凄まじい傑作! 読むべし!!

酔って帰って寝転んで『ヘヴン』が載った『群像』を開いてそのままの姿勢で固まった。張り詰めた展開。濃密過ぎる言葉の羅列。緊張し、興奮した。最後まで動けなかった。なぜだなぜだなぜだ。一見、単なる“いじめ小説”であり“思春期の葛藤小説”に見える設定なのに、作品の秘めたマグマはそれを軽く否定する。興奮醒めやらず眠るのが惜しくてパソコンを立ち上げた。キーワードを打ち込む。社会と世界、順応と逸脱、絶対主義と相対主義、大島弓子と宮台真司、イコンとスティグマ、ジョバンニとカムパネルラ、二人が辿り着けなかったヘヴンと誰も乗れなかった銀河鉄道、コジマとコジマ・ワーグナー、“僕”とニーチェ、そして、絶望と希望。気付けば明け方になっていた。凄まじい読書体験だった。未映子さん、本当にありがとう。

横里 隆 本誌編集長。9月9日、鈴井貴之氏の初! エッセイ的自伝小説『ダメ人間』刊行。本誌今号の特集もぜひ。ダメを力に!

揺らぎの読書

これまで小説を読んできて、そのたびにいろいろなことを感じてきたけれど、『ヘヴン』の読後感は経験したことのないもので、それは多くの“問い”であり、自分自身の揺らぎだった。いじめられる僕に手紙を出し、優しい言葉をかけ、お互いの共通項を提示してみせるコジマ。僕と同じ側にいながら、「大事なのは、こんなふうな苦しみや悲しみにはかならず意味があるってことなのよ」と説く彼女にはある種の宗教的な匂いがして嫌悪感を抱きつつ、どこかで惹かれている。ストイックなまでに孤高を保ち、自らのルールを守ろうとするその姿に。著者は対立する登場人物を配し、価値観をせめぎ合わせる。さっきまでコジマに同調していた自分がいままた別の場所にいる。そんな先の見えない読書の緊張感に酔った。

稲子美砂 『ダ・ヴィンチ』が「なぜ松ケン特集なの」と思った方、特集を読めばなんとなくわかっていただけるはず……

世界を選べない子どもたちへ

若者は不自由だ。金はないし親だって、容姿だって選べない。大人の偽善に合わせて生きるだけ。未映子さんは書く。「僕たちはいく場所もなく、(中略)ここ以外に僕たちが選べる世界なんてどこにもなかった」と。思春期の不安定だったころを思い出し、緊張して読んだ。読む者の嫌な記憶を抉り出す迫力、暴力。だが救いはある。すぐ隣にはコジマがいて、母がいる。僕が完全に自分を見失わない程度に。それだって壊れてしまうかもしれないのだけど。でも未映子さんはそうしなかった。世界は誰にも平等に、ただそこにある。どう見るか、どう感じるかは、自分次第。“僕”が世界を美しいと思った記憶は永遠に刻まれる。その核を得ることで、その先の世界は「自分が作る」ことになる。世界は「選べるもの」にできると教えてくれる。

岸本亜紀 加門七海『お祓い日和』発売中。怪談専門誌『幽』も絶賛発売中です。9月12日イベントやります

ありがたいのに、悲しいこと

斜視の少年の物語は、どこまでも視点の話だった。誰もがその人なりの視点を持っていて、自分に見えるものと人が見ているものは、決して完全には重ならない。斜視の少年と同級生たちのように。そして斜視の少年の右目と左目ですら。私も10代のころは「視点の違い」におびえていた。一人ひとりが違いすぎて、怖ろしかった。本書を読んでそのことを思い出したが、読むまで忘れていた。斜視の治療にあたる医者は、少年に言う。「そのうち自分が斜視だったことも思いだせないくらいになるよ」。それはありがたいことで、なのに悲しい。視線と視線が重ならないと痛感していたからこそ、二つの視線が一瞬交差するだけでも、それが奇蹟だと瑞々しく体感できたのかもしれない。記憶の彼方の、その奇蹟のまばゆさを、本書は思い出させてくれる。

関口靖彦 泥酔して川原で熟睡。通りがかった人が死体と間違って通報し、警察と消防に起こされた。お手数おかけしました

実をいうと、最初の5行を読んで

すぐ、ラストを先に読みました。そこだけ読んでも涙が出た。とても美しかった。もちろん最初から読んでもおもしろいし、途中の適当に開いたどのページのどの行から読み返しても、またそこからラストまで読まされてしまう。想うことも言いたいこともいっぱいあるけれど、とにかくすごかったです。手持ちのリアルな人生を生きるために物語に救いを求めたり、ひとつではない世界をそれでも誰かと共有したいと願ったり、

飯田久美子 しながら、並木道の向こうに“僕”が見たこのはだかの世界を、わたしも生きている。あと『絞首刑』(青木理)もすごかった

この世界を生きていくこと

なぜこんなに辛いのか? なぜこんなに退屈なのか? この世界で生きるため、独自の方程式をもって生きることは、自分を強くし、世界から守ってくれる。だが、それぞれに見ている現実があまりにも違うことがわかったとき、どうなるのか。自分の築いた世界が崩れたとき、目の前に広がる「現実の正体」は暴かれるのか? 倫理や思想、観念で作り上げたフィルターをはずしたとき、その目に映る景色はヘヴンなのだろうか。

服部美穂 石田さん、佐藤さん、唯川さんの共作『TROIS』難しい試みと思いましたが、読んだら面白い! サトエリすごい!!

くるぱみんがどっくどく

コジマと“僕”の2人がこっそり逢い引きしている場面。男女が互いの想いを語りあう、よくある日常が描かれている。だが私は、サスペンス小説を読んでいるかのごとく、ドキドキと胸を苦しく絞めつける“くるぱみん”を脳からだしながら読んだ。学校で過酷な苛めにあう彼らは、まるで逃亡犯のように人目を忍び、約束された安寧はどこにもない。逃げ場なんてどこにもないと思っていたあの頃の自分を、愛おしく思える。

似田貝大介 イベント「怪談ノ宴2009」が9月12日に、東京・大井町にて開催されます! 詳しくは「怪談通信」のページにて

それぞれに見える世界

14歳の頃を思い出しながら、読んだ。苦しくてはらはらしながら“僕”とコジマの世界にのめりこんだ。ふたりが夏休みに向った美術館で「だめなことなんてなにもないよ」という“僕”の優しさに希望を抱いた。「わたしたちはちゃんと知っているもの。なにが大切でなにが駄目なことなのか」と言うコジマの強さに涙がでた。ヒリヒリと彼らの痛みが伝わってくる。それなのに、なぜか清々しい。何度も読み返したくなる作品だ。

重信裕加 鈴井貴之さんの特集で札幌に行ってきました。編集長と一緒に9月9日発売の『ダメ人間』サイン会で全国を縦断します!


子どもの頃を思い出した

百瀬が“僕”に向けて言った「なあ、世界はさ、なんて言うかな、いっこじゃないんだよ。」という言葉は、私が子どもの頃、どうやったら自分の中で消化できるのかと、ぐちゃぐちゃ考えていた事柄だ。まぁ百瀬は私よりよほどとんがっているようだけれど。そこからどう成長するかは人それぞれだが、百瀬とは違う立ち位置でがんばっている“僕”がどんな大人に成長するのか興味がある。ステキな大人になって欲しい。

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痛く、哀しく、美しい物語

たくさんのことにとらわれていた頃を思い出した。〈いま〉が永遠に続く気がして、いっそすべて終わらせたいのに何もできなかった頃。たぶん、“僕”もコジマも二ノ宮も百瀬も目の前の現実と自らの思想にとらわれている。だけどそんなものはたった“一万五千円”のこと。ラストに見た光景、それは誰にも関与されないからこそ美しく、哀しい。それを越えたときにきっと私たちは大人になり、〈いま〉は永遠でないと知るのだ。

野口桃子 『獣の奏者』続編は、その深さと衝撃に、読後しばらくは物語から帰ってこられないほど。何度も読み直してます。オススメ


選ばれた存在になれなくても

きりきりしながら読んで、「文体やら表現やらああなんか完璧」(安易に使いたくないけれどカンペキだと思ってしまった)と感じて、美しさとからっぽうさとでも生きることを突きつけられて、溜息。世界は見るものに依って違うことを、選ばれたものたちを描いて示していると感じたけれど、私はきっと選ばれた存在にはなれなくて、でも、美しさを見詰めることはできるはずだ、と思って生きようという気持ちになりました。

岩橋真実 ブックオブザイヤーのアンケート、はじまりました。一年って早いですね。たくさんのご投票、心よりお待ちしております

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