2008年11月号 『ジョーカー・ゲーム』柳広司

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/11

ジョーカー・ゲーム

ハード : 発売元 : 角川グループパブリッシング
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:柳広司 価格:1,620円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『ジョーカー・ゲーム』

柳 広司

●あらすじ●

昭和初期、かつて優秀なスパイだった結城の発案で設立された陸軍のスパイ養成学校“D機関”をめぐる中編集。表題作では、D機関に配属された佐久間がスパイ容疑のかかった外国人の家を捜索するが、実はそれはD機関を陥れるための罠で……。「幽霊(ゴースト)」では、テロへの関与を疑われる英国総領事の屋敷に蒲生がもぐりこむ。「ロビンソン」では、ロンドンで任務中に敵に捕まった伊沢が、結城の餞別をヒントに脱出を試みる。「魔都」では、上海憲兵隊の本間が上官宅を爆破した犯人を探す中でD機関の影に気づき……。「XX(ダブル・クロス)」では、D機関の監視対象だった外国人が謎の死を遂げる。独自の規律に生きるスパイたちの活躍をスタイリッシュに描く。

やなぎ・こうじ●1967年、三重県生まれ。2001年、『黄金の灰』でデビュー。同年、『贋作「坊っちゃん」殺人事件』で朝日新人文学賞受賞。ほかに『新世界』『はじまりの島』『聖フランシスコ・ザビエルの首』など。

ジョーカー・ゲーム
角川書店 1575 円
写真=川口宗道
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編集部寸評

まいった。好きです。痺れました。

最高にクールでクレバーでクリエイティブな傑作エンターテインメント。特に、鋭利な刃物のような結城中佐の言葉が映える。いわく「金、名誉、国家への忠誠心、あるいは人の死さえも、すべては虚構だ」、いわく「絶対的現実主義者であるべき軍人が、その組織の長たる天皇を現人神などと祭り上げ、絶対視することは、本来有り得べからざる事態だ」と。当時では許されない、体制への批判的発言だ。しかし既成概念を壊さなければスパイは機能しない。つまり武士道は何かに殉じて美しく死ぬことだが、スパイは孤独と不安の中で存在を消して生き続けることだから。絶望と虚無を引き受ける覚悟のなんと格好いいことか。そしてそんな結城が僅かに漏らしたひと言「死ぬな」に痺れた。ああそういえば、アムロよりシャアが好きでした。

横里 隆 先日、遂に女装した。プロのメイクとカメラの技に感動! 赤松さん、下林さん、本当にありがとう!

その任務は過酷にして栄達なし!

スパイ小説というと、「007」を即座に思い浮かべてしまう輩からすれば、『ジョーカー・ゲーム』では、まずスパイというものの認識を覆される。彼らはその存在を知られたら終わり。陰の存在であり続け、「死ぬな、殺すな」の理念を全うするためには、合理的で冷徹な精神とタフな肉体が必要なのだ。戦時下の日本が舞台でありながら、これほどまでに洒落た小説はなかったと思う。それは、結城中佐をはじめとするD機関のスパイ候補生たちがあまりにカッコイイから。ストーリーも、「ゲーム」というタイトルに相応しく、まったく着地点が見えない。5編の構成も多角的で、ボリューム以上に贅沢な満足感が得られるのだ。読み終えるのが残念なほどおもしろかった。著者の柳広司さんにはぜひ続編をお願いしたい。

稲子美砂 映画の試写も2回観たし、ドラマも小説も復習して、新作も熟読して。『ガリレオ』三昧の9月でした

おしゃれなスパイミステリー

スリルアクションの超スピード作品かと思っていたら、5編とも違う読み心地、軽快なテイストでラストまでじっくり楽しめた。思想的にも頭脳的にも問題ありそうな選ばれし者たちの群像劇なのだが、スパイ候補生が日々言われるのが「死ぬな殺すな」。昭和の暗い歴史を背負った社会派でないという点が深刻さに欠けていてとてもいい感じだ。でもそれが史実だというから、話はぐぐっと面白くなる。ディメンションを変えることのできる頭のいい人間っていつの時代にも「影」に存在しているのね〜とわくわく。5編に登場する主人公たちはアクが強いキャラばかりなのだが、読み進めるうちにいつの間にかどの男もスタイリッシュに格好よく見えてくる。トリック満載で、さすが柳広司、超一級ミステリ作品に仕上げている。

岸本亜紀 東雅夫氏新刊『怪談文芸ハンドブック(仮)』製作中。大田垣晴子文庫キャンペーン、お陰様で終了しました

一枚のコインから世界へ広がる謎

読みながら、何度「カックイイ!」と声を上げたことか。D機関の男たちのかっこよさ、それは主人公のかっこよさではなく、悪役のかっこよさである。いびつに発達した能力、情をさしはさまない明晰な頭脳、そして誰も愛さず信じない孤独なプライド−−読者から、共感ではなく、憧れと畏怖を引き出す強烈なキャラクターたちの魅力もさることながら、物語世界の広がりにもゾクゾクした。スパイが扱う小さな金庫や一枚のコインが、ひとつの事件を解決するだけでなく、その裏側にある同じ国の者どうしの策謀や、国と国の駆け引きへと、無限につながっていく。その広がりを、ごく短い文章で、しかししっかりと描き出す著者の手腕! まったく無駄のない短編でありながら、深く広い世界をその背後にありありと感じさせる驚異的作品だ。

関口靖彦 読みながら脳内で、結城中佐に岸田森を勝手にキャスティング。言うことすべてがカックイイ!

生きて、次の手を考える

死ぬな、殺すな。と結城中佐が言ってたけど、それは思考するのを止めるなってことだと思った。体育会系的精神論も浪速節的情も全然通用しなくて、あきらめることを許してくれない。過程の美しさでなく結果の有用性にしか興味がない。結城のことを書いてるつもりが、人でなしとみんなに言われていた上司のことを書いた感じになった。人でなしと言われて、でも圧倒的に信頼されていた。また、結城の話に戻りました。

飯田久美子 諜報活動に興味をもったら、元・外務省の“リアルスパイ”佐藤優さんとさとう珠緒さんの対談もぜひ!

これぞエンターテインメント!

「幽霊」の中で、グラハム氏の背景が、冷徹なスパイ・蒲生の目を通して語られることで、むしろ魅力的に浮き上がってくるところが興味深かった。また、「ロビンソン」では、冒頭で読んだ表題作ほどの驚きはもはや訪れないだろうと思っていたところに、度肝を抜かれる展開が待っており、まんまとしてやられた。スタイリッシュで渋くて“危険な香りのするいい男”みたいな作品集。そんな男、好きにならないはずがない!

服部美穂 『地図男』おかげさまで増刷しました! 9・19発売の『品性でも磨いてみようか』もよろしくお願いします!!

やっぱり、男はロマンを求めたい

男のロマンとよくいいますが、ドでかいものから、日常にひょっこりと隠れているちっぽけなものまである。重要なのは大きさではなく、それを感じることだと思っていたのだが、“スパイの日常には冒険もロマンも存在しない”のだ。勝手に本書からロマンを感じとり、一人でうっとりしていた私の足もとを軽くすくい上げられた。うわっ、やられた!矢鱈に芝居がかって興奮する私などは、スパイになんて到底なれないのだろう。

似田貝大介 第2特集の取材で印刷工場に行った。どこを見てもメカと職人たちのロマン。頬が緩みっぱなしだった

無数のトラップにやられっぱなし

精神と肉体、その極限の能力を要される秘密スパイ組織“D機関”に属する孤高の男たち。仮の姿を演じながら周囲を欺き、クールに任務を遂行する彼らは、「冒険もロマンも存在しない」無情な任務とかけひきを強いられるが、そこにはやはり男のロマンが感じられた。勝利のどんでん返し、くつがえされる予想、無数のトラップに、ただただ圧倒されっぱなし。最高に面白いスパイ・ミステリー小説!

重信裕加 内藤みか氏『あなたを、ほんとに、好きだった。』文庫ダ・ヴィンチより10月24日刊行予定です!


親近感を覚えたプライドの所在

才能に秀でた人と接すると、賞賛と同時に未知への緊張が少しだけある。“D機関”に属する人たちが有するずば抜けた才能は、私にとってそう感じるものだ。そんな才能をもって活躍する彼らに親近感など抱くはずはないのに、なぜかこの物語の彼らには親近感を覚えた。なぜだろうと考え思い至ったのが“プライドの所在”。自分の存在を肯定するための強烈なプライドが、彼らに人間臭さをまとわせていた。興味深い。

鎌野静華 今年の夏は本当につらかった。入稿が終わったら夏の疲れを癒すべく体メンテしたいです。……切実

焦らされ、翻弄され、虜になる!

駆け引き、先読み、頭脳戦。とにかくドキドキした。意地とプライドで窮地も切り抜ける姿があまりにかっこよくて、一個人として生きる自由をすべて奪われる人生がどれほど切なく苦悩に満ちているのか……なんて想いを馳せるのも、つい二の次に。だってその鮮やかな手際ときたら! ああ、憧れる。だけどわたしには、スパイなんて絶対できない。この本を読む電車の中で、緩む頬をたしなめることもできなかったのだから。

野口桃子 一青窈さんの武道館ライブに行ってきました。新曲もあったかくてじんわり。優しい人になりたいと思った

ダークヒーローへの憧れは不変

第一線を退いた伝説のスパイの下、超人的な技能を武器に内外の敵と渡り合い、任務をクリアしていく “D機関”の兵士たち。本来汚れ役であるはずのスパイにこれほど惹かれるのは、一般的な倫理に悖った闇の稼業であるからこそ彼らが護持する独自の信念にあるのだと思います。昭和初期という時代に、お国のためではなく、自らの証を立てるために最高のパフォーマンスを発揮する。実にクール。これぞ男の美学ですよ。

中村優紀 調べてみたら、日本にもけっこう諜報機関があるようです。リアル・スパイの方、頑張ってください!

“魔王”こと結城中佐にうっとり

学生達も超人的な能力だけど、その全てを見透かし上をいく結城中佐の格好良さたるや。惚れた。5編とも面白かったが、対スパイの駆け引きや、スパイ稼業と中佐に魂を奪われていく伊沢の描写(シューベルト「魔王」が効果的)に心躍った「ロビンソン」。伊沢は最後に中佐の計算に思い至るが、教官・生徒とも高い能力があってこそ成立するこの関係も素敵。もちろん私は伊沢が感付いた途中段階すら思いも寄りませんでした。

岩橋真実 特集で、東野圭吾さんの本をテーマにわけてご紹介しています。新たな作品を読む際の参考になれば嬉しいです

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