2008年06月号 『くらしのいずみ』谷川史子

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/11

くらしのいずみ (ヤングキングコミックス)

ハード : 発売元 : 少年画報社
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:谷川史子 価格:586円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『くらしのいずみ』

谷川史子

●あらすじ●

少女誌・女性誌で長く活躍してきた著者による、初の青年誌レーベルからのコミックス。「ほんわか・ほのぼのラブ」な作風は変わらないまま、「夫婦もの」というテーマで描かれた短編集。友達夫婦、姉さん女房、年の差結婚、学生結婚、夫婦の形はそれぞれで、それぞれにあったかい日常と歴史がある。ちょっとしたことからのすれちがいや仲なおり、出会いや別れ……。お互いを想い合うまっすぐな気持ちたちが、じんわりと涙を誘う。『YOUNGKING アワーズ』および『YOUNGKING アワーズプラス』に掲載された、6組の夫婦の姿(「くらしのいずみ」6編)と、新婦の親友に焦点を当てた物語(「早春のシグナル」)を収録。

たにかわ・ふみこ●長崎県出身。1986年「ちはやぶるおくのほそみち」でデビュー。代表コミックスに『各駅停車』『花と惑星』など。アニメ『東京マーブルチョコレート』のキャラクターデザインも担当。集英社コミック文庫にて『谷川史子傑作選』ほかが昨年より刊行中。現在東京都在住。

少年画報社YKC 570円
写真=下林彩子
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編集部寸評

圧倒的ないい話の連続の中に
圧倒的なリアリティを感じる

本音を言い当てられると素直にうなずけなかったり。あまりにもいい話を聞かされると何だかむず痒く感じてしまったり。人は誰もそんなふうにひねくれているものだ。本書を読みはじめ、それを強く感じた。やさしいエピソードに照れくささを感じてしまうほどだったから。しかし、読み進めるとともにその思いは薄れ、しだいに谷川ワールドに浸っていった。それは普段の生活の中で、必要に迫られて悪ぶれたり、偉ぶったりしている鎧を脱ぐ作業にも似ていた。脱いで素になって、本当のことが描かれていると気付いた。本当のことだから恥ずかしいのだ。そして男性コミック誌に連載されている理由を理解した。男たちもやさしく生きたいのだ。そう生きたい。

横里 隆 本誌編集長。第3回ダ・ヴィンチ文学賞が決定。大賞の『地図男』は素晴らしかった。来月全文掲載予定

どんな恋でも片想い
でもだからこそいい

さまざまな夫婦をテーマにしたオムニバスだが、そこにはたくさんの片想いが詰まっている。縁あって結婚してもお互いの想いは等価ではないし、家族になって初めて気づくことから、その想いを深めていくこともある。夫婦間だけでなく兄弟や同性の友達が寄せる片想いも。大切な人が自分から離れていく。それが我慢できるのは、その人がきっと幸せになってくれると信じられるからなのだ。谷川さんの絵とストーリーのバランスは絶妙で、全部いい話なのに偽善的な匂いがまったくしない。一貫して人や恋愛のすばらしさを描き続けてきた人ならでは信念がある。登場人物たちは本当に幸せそうに微笑む。その笑顔を眺めているだけでも幸せになれる作品集だ。

稲子美砂 かき氷の季節ももうすぐ。引き続き『蒼井優PHOTO BOOK 回転テーブルはむつかしい。』をよろしく

人生迷ったら読むといい。好きな
人に電話をかけたくなる一冊

一番好きな人とは結婚できないーー」いつの間にか身にまとってしまった不吉な定説……。頑張った20代、30代。恋も仕事も大忙し! 私はこんなに頑張ってるのに、目の前の男は平凡ねエと別れた昔の彼氏は、十年たてば親友と幸せな家庭を築いている! なんてことに気づいたってもう遅い。女子の幸せって何なんでしょうね? でもこの漫画を読んで気づいた。目の前の人を地味にでも大事に思って、いつのまにかかけがえがなくなって、それが好きということで、家族という形でその愛情を守っていけばいいのだと。暮らしに輝きを与えるのは自分。それがあれば先の人生、なんとかなるさと思うのも自分。うれし泣き、思い出し泣き、全部で30回泣きました。

岸本亜紀 綾辻行人の『深泥丘奇談』、大人の読者に好評です。大田垣晴子、文庫新刊準備中。ご期待ください

強い意志に基づいた
全力の性善説

痛い話、暗い話こそがリアル。そんなふうに本を読んでしまう日もある。だが本書に描かれているのは、その対極にある「善」だ。悪人は出てこない、まっすぐな思いは通じる、誰もが誰かに愛情を持っている。ベタの一言で済ませてしまう読者も多そうだけれど、私は何度読んでも涙が出る。ここにあるのは、痛いリアルに目をつぶって垂れ流した夢物語ではなく、リアルを踏まえたうえで「それでも、こうありたい」という強い意志だからだ。もちろん私たちは、こうありたいと思ったとおりに毎日を過ごせるわけではない。でも、「こうありたい」の結晶がほんの一粒でも、自分の中に、そして誰もの中にあることを知って生きられるのは、ものすごく心強いことだ。

関口靖彦 私はデスメタルですが、いい話には大変弱く、ぼろぼろ涙が。何かつらいことでもあるのか、自分で心配になる

わかってるよ!とムカつくのも
ためらうくらい不敵

この不敵な感じのしあわせ感は一体なに?とむずむずした。語り手はこんなにクヨクヨウジウジしているのに。で、気づいたのは、もうかたっぽが、絶対いつも笑ってること。笑ってるというのはとても強い。という単純だけど難しいことが、どのページからもあふれていて、中てられました。きのうも泣いたわたしはもう白旗あげるしかなかったです。

飯田久美子 わたしが今月一番たのしかったのは、山崎ナオコーラさんの『論理と感性は相反しない』。自由ってすごい!

矢野家の物語に号泣。島岡家
の尋樹さんと結婚したいです

本書には「ああ、私もこんな人になりたいな」と憧れてしまう人たちばかりが登場する。駆け引きや手練手管や惰性に飲み込まれずに生きていくことは難しい。だけど彼らは、母鳥が卵を温めるように、ゆっくりと、じっくりと、互いを思いやりながら、日々の生活を営み続けている。こんな風に誰かと時を重ねて生きていけたら素敵だろうな。

服部美穂 翻訳家の岸本佐知子さんの新刊『変愛(ヘンアイ)小説集』面白いです。58ページのインタビューもご覧あれ

よくわからないけど、楽しい
幸せって、そんなことかもね

愛は執着なのだという。たしかに大切な存在は、ただそこに在って欲しいし、突然いなくなってしまったら、ぽっかりあいた穴が埋まることはないだろう。かといっていつまでも未練を残すことはしないと思う。冷たいとかドライとかじゃなくて仕方がない。そんなよくわからない気持ちだけど楽しい。今はわからなくたって、それは幸せに違いない。

似田貝大介 第2回『幽』怪談文学賞の長編部門特別賞を受賞した『遊郭のはなし』が5月16日に刊行されます

男性だけじゃもったいない
女性もくすぐる“少女”マンガ

谷川さんの描く女性たちは、なぜこんなにも愛らしいのだろう。そして彼女たちのパートナーもまた、優しくて繊細で、実直で寛容だ。この作品には、年の差夫婦やワケあり夫婦など、さまざまな夫婦の暮らしが描かれているが、そこに流れる時間は、おだやかで心地よい。読み始めはくすぐったいけど、最後はあったかい。お風呂のような作品でした。

重信裕加 (映画『アフタースクール』の大泉洋さんと内田監督の対談は必見! 『ぐりとぐら』特集もお楽しみください

なんでこんなに
泣けちゃうんだろう

恥ずかしながら、全話ボロ泣き。我ながらびっくりだ。だって、出てくる人たちはみな一途でキレイ(内面が)で、私とは違う。でも、そんな彼らのくらしの中にも、他人を愛することを知ってしまった人間のどうしようもない性が色濃く匂い立つ瞬間が。なかなかキレイになれない私は、そこに過敏に反応してはティッシュを消費していた次第。

奈良葉子 先日、耳にタバコを挟んだタクシー運転手さんが「桜は恋をしているから綺麗なんだよ」と教えてくれました

女の人って
強くてやさしくてかわいい!

結婚を決意できる女の人は、愛情深くて強い人だと思う。相手のいろんなところを包み込めちゃうのだから。ヒロインたちの素直でやさしくて強い姿に、ただただ憧れた。私の周りの先輩方は「自然とそう思えるようになる」と言うけれど、そのスキルは女性に課せられるものなのか? 私には無理だろうから島岡家の旦那さまのような人を探そう!

鎌野静華 WEBダ・ヴィンチ連載中『男の本音・女の本音』。5月のお題は“浮気”です。お楽しみに!

大好きとありがとうを、
身近な人に伝えたい

心がけていることがある。“大好きとありがとうは惜しまない”ということだ。自分の気持ちをさらすのはとても怖いけど、伝えられずに永遠に失うほうがもっと怖い。それでもついうっかり、まちがえることもある。だけどそんなときは、意固地にならず素直になりたい。それでいい、怖がらなくていいんだと、物語に抱きしめてもらえた気がした。

野口桃子 第3回ダ・ヴィンチ文学賞の受賞者大発表です!第4回の応募もスタート。ご応募お待ちしています!

特別と日常がともにある
温かみは午睡に似た心地よさ

この作品に描かれる夫婦像はいずれもドリームだ。未婚の僕でもそれは分かる。通常なら時とともに失われる特別性が、ここでは少しずつ形を変えながらも損なわれることのないまま日常へと組み込まれている。まさに理想の夫婦像。たとえ夢とは分かっていても、その心地よさはあたかも春のまどろみのように僕らをとらえて離さないのだ。

中村優紀 今回のトロイカ学習帳では東京を歩きました。歩かないと分からないことってやっぱり多い。歩けよ乙女!

なかなか素直になれない
その可愛さがうらやましい

駆引きが苦手だ。嘘がつけなくて、染井くんや亮子のように悶々としても、耐えられず早々にぶつけてしまう。悩んでいても大抵気にされていない、言わなきゃ気付かれない、と思うから。それでもたまには「でも言わなくてもわかってほしい」とうにゃうにゃ悩むこともあって、そんな時は少女マンガの主人公になれているのかしら、と思うのでした。

岩橋真実 谷川さんの『くじら日和』が大好きです! 元りぼんっ子ですが、今や青年誌や麻雀漫画が気になります……

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