2008年02月号 『The Book jojo’s bizarre adventure 4th another day』乙一

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/11

The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day

ハード : 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:乙一 価格:1,620円

※最新の価格はストアでご確認ください。

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

2008年1月4日

『The Book jojo’s bizarre adventure 4th another day』
乙一/著
荒木飛呂彦/原作・イラスト
集英社1575円

advertisement
 荒木飛呂彦の漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の世界を、完全オリジナルストーリーで小説化。
 2000年正月、杜王町。広瀬康一と岸辺露伴は、血まみれの猫を追って“ある奇妙な状態”で死んでいる女性を発見する。それは、解決まで3カ月を要する怪事件の幕開けだった。
 またあるとき、読書好きの高校一年生・双葉千帆は、杜王町立図書館で、自分の通うぶどうヶ丘学園高等部の制服を身につけた少年と知り合う。彼は、常人には考えられないようなある特技を持っていた……。
 仗助ら原作の主要キャラクターと、乙一オリジナルのキャラクター&“スタンド”が物語を織り成す、著者構想・執筆2000日の大作。

撮影/首藤幹夫
 
 

  

おついち●1978年、福岡県生まれ。96年、第6回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞受賞の『夏と花火と私の死体』でデビュー。2002年刊行の『GOTH リストカット事件』で03年第3回本格ミステリ大賞を受賞。他、『きみにしか聞こえない』『銃とチョコレート』『失はれる物語』『ZOO』など多数。独特の題材や文体に魅かれる読者も多い。


横里 隆
(本誌編集長。謹賀新年! 今年は子年。ねずみといえばガンバ。決して屈しない彼らの強い心意気が好きだった。年の初めに心の中で叫ぼう「シッポを立てろー!」と)

すべての悲しみと苦しみを
その本とともに携えて——

忘れることは、許すことに通じる。誰かの罪も、己の過ちも、時間の経過とともにぼんやりと、記憶の海に溶かすことができたとき、ようやく許すことができるから。ゆえに、何ひとつ忘れることができない、完璧な記憶を持つ男がいたら、果たして彼は正気を保てるのだろうか? いつか、そんな話を乙一さんとしたことがあった。本書の主人公・蓮見琢馬は、過去の痛みも、苦悩も、憎しみも、微塵も消すことができない。彼が発狂しなかったのは、復讐という目的があったからに違いない。忘れることができないから、許すことが叶わず、ゆえに復讐心から解放されることもない。そして復讐を成就するためには正気を保たねばならないから、結局彼は何ひとつ忘れることができない。まるで負の永久機関のように閉じたサイクルから、誰が琢馬を救い出したのか? 琢馬は忘却という名の許しを得ることができたのか? その結果は本書を読んでいただくとして、究極の悲しみは何も忘れられないことだと思い知った。大丈夫、僕が琢馬の代わりに、いっぱい忘れよう。忘れて忘れて、たくさん許そう。ただの物忘れにならないように注意しながら……。


稲子美砂

(本誌副編集長。主にミステリー、エンターテインメント系を担当)

物語のうねりに、
一瞬で巻き込まれた

『ジョジョ』第4部は未読だったが、まったく気にならなかった。謎めいた序章から終章まで、数奇な運命を生きる登場人物に、まさに【感情移入】して読んだ。蓮見琢馬は言う。「人類史上、究極の小説があったとしたら……、その小説で、人を殺せるかもしれないな」。『The Book』はその名にふさわしく「本」というもの、「小説」というもの持つ力を読者に深く考えさせる。これは乙一自身の言葉のようにも読めて興味深い。本作は、乙一の持ち味である胸を締めつけられるようなせつなさと底なしの暗黒に加え、スピーディな場面転換、緊迫したバトルシーン……と、これまでの彼のどの作品よりもエンターテインメント性に溢れている。『ジョジョ』第4部を読んで、その世界を深く知り、改めて再読したいと強く思った傑作だった。


岸本亜紀
(『幽』8号、京都怪談特集、発売中。『うちのごきげん本』(ばばかよ)2月1日発売予定です〜)

乙一は最高のエンターテイナー!
とにかく読み始めたら止まらない!

『ジョジョ』を読んでいない私がどこまで楽しめるのか、はっきり言って不安だった。が、それは杞憂だった。ページをめくったその瞬間から、育児からくる睡魔はぶっ飛んでしまった。とにかく続きが読みたくて仕方がない。序章に書かれた「黒い琥珀の記憶」という能力を持つ、愛する人を殺害するシーンは、この先、一体どこに描かれる重要なシーンなのか、何の伏線か?とわくわくした。ミステリー仕立ての構造は、登場人物をみな怪しく光らせる。「スタンド」という特別な能力はとても自然に破綻なく描かれているし、青年たちの終盤の戦いのシーンは『少年ジャンプ』という感じで楽しい。壁の間で産み落とされた子どもは、果たして敵側か味方かなど、つまりは、持ちうる想像力をフル稼働して読むこととなった。なんとも幸福な読書の時間よ! 全部読み終わって、どこが原作の部分なのかを聞いてさらにぶっ飛んだ。ほとんど乙一の創作なんて! 天才作家に挑んだ若手天才の作品は、さらなる天才作品となったのだ。すごい、すばらしい!


関口靖彦
(イキウメ前川知大さん初の小説『散歩する侵略者』出ました! 詳細は本誌162ページへ!)

荒木マンガのコマ運びまで
取り入れた真正ノベライズ

読みながら、「うぉー、ジョジョっぽい!」と興奮した。乙一の作品でありつつ、まさに荒木ワールド。小説にはあの特徴的な絵がないのに、それでもなお、そう感じさせるもの——それは“コマ運び”だと思う。まず読者がびっくりするような“絵”をドン!と見せ、「アレが原因では?」「いやいや、別の理由が」と次々に謎解きをたたみかけ、そうこうするうちに次の謎がドン! この連発で物語を加速させていく手腕が、まさにジョジョなのだ。たとえば冒頭、道ばたで岸辺露伴が猫に餌をやっている。次々に猫たちがうずくまる。毒殺!?と読者はびっくりするが、すぐに「おちつけよ、睡眠薬をまぜただけだ」というセリフ。一瞬ほっとするものの、なんで睡眠薬?という疑問がすぐに湧いてくる……。そして最大の謎は、わずか2ページの序章で提示されている。あとはノンストップだ。


飯田久美子
(ダ・ヴィンチ文学賞締切間近です。まだ途中の人は、よかったら特集を読んで参考に!)

それでも、忘れないこと

執着心が強いので、思い出の品をやたらとっておきたがる。手帳のメモ、チケット、メール、電話の着信履歴、レシート、ゲラ……思い出の品とすら呼べないものまで。で、時々なくしたりすると、激しく落ち込む。だけど、実際は、あったときから、それらを見返すことなんてほとんどなくて。結局、自分にとって本当に大事なことは忘れない、と思い至って立ち直る。“忘れる”ということは、自分にやさしい検索機能だと思う。おかげで、思い出はだいたい楽しくて美しい。“忘れない”ことは、だから苦しいし痛い。忘れないことは、ただそれだけで、ひとつの戦いなのだ、とこの本を読んで思った。あと、乙一さんのあとがきを読んで、わたしはジョジョのことをよく知らないけれど、若いときの夢とか想いがかなうのを目にできることはとても気持ちのいいことだと強く思いました。


服部美穂
(1/18に古田新太さんのエッセイ集『魏志痴人伝』が発売! 本誌P.112のインタビューもご覧あれ! !)

『ジョジョ』全巻読みます!
読みたくなりました!!

『ジョジョの奇妙な冒険』の連載開始後、兄がコミックスを買い始めたので、私も夢中で読んだ記憶がある。しかし、3 部あたりまでの記憶しかない。本作の元である4部以降の『ジョジョ』を読んでいない私は読まないほうがいいのではと不安だった。でも読み終わった後、その思いは180度変わった。こんなに面白いノベライズがあるなんて! ここまでノベライズとして成功したノベライズもないのではないか。原作の世界観を壊さずに、小説としての面白さも十二分に楽しめる。ビルの隙間に挟まれたまま生きた女性と不思議な能力を持つ青年。『ジョジョ』を背景に紡ぎだされる悲しくも切ない二人の物語にすっかり引き込まれてしまった。乙一さんは本当〜にすごい! !


似田貝大介
(今年も『幽』や幽ブックスがいっぱい刊行される予定です。どうぞよろしくお願いいたします)

人のいとなみを描きあげる
“人間賛歌”の物語

『ジョジョ』第4部の連載当時、世界規模の舞台で繰り広げられた第3部の後に始まった、東北地方の小さな町で展開される物語に戸惑いを感じた。しかしすぐに、世界から地方都市に焦点を絞ることでより濃密に描かれた人間模様に惹きつけられた。熱心なファンはひとりひとりの脳内に『ジョジョ』の世界が構築されている。だから私もあくまでアナザーストーリーを楽しもうと思って読んだ。原作を忠実に再現した世界感。魅惑的なキャラクターとスタンドのアイデア。スリリングな展開。どれも素晴しい。しかし、それだけじゃない。生と死、そして新たな命。杜王町で生きる人々が描かれた物語は、正真正銘の乙一作品に昇華されていた。なんて贅沢な小説だろう。

イラスト/古屋あきさ

読者の声

連載に関しての御意見、書評を投稿いただけます。

投稿される場合は、弊社のプライバシーポリシーをご確認いただき、
同意のうえ、お問い合わせフォームにてお送りください。
プライバシーポリシーの確認

btn_vote_off.gif