2004年12月号 『間宮兄弟』 江國香織

今月のプラチナ本

更新日:2013/9/26

間宮兄弟

ハード : 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:江國香織 価格:1,404円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

2004年11月06日

『間宮兄弟』江國香織 小学館 1365円

200412.jpg   酒造メーカーに勤める兄・明信と学校職員である弟・徹信は、お互いが三十路を越えた今でも二人で共同生活をしている。引っ込み思案の兄と、情熱的すぎる弟は、恋愛対象として「恰好わるい」「気持ちわるい」「おたくっぽい」「そもそも範疇外」と、さんざんな評価を受けてきた。過去の痛みを教訓に、恋愛から遠ざかることで心安らかに生きることを誓う兄弟だが、そんな彼らに恋の予感が訪れる。自宅のカレーパーティーに呼んだり、自分で編集したMDを送ったり、二人はそれぞれ憧れの女性に様々なアプローチをしかけるものの……。
 女性の内面や恋愛模様を描いてきた著者が、“いい人かもしれないけれど、恋愛関係には絶対ならない”恋愛以前の男たちを描く、意欲作。 

えくに・かおり●1964年、東京都生まれ。89年『409ラドクリフ』で第1回フェミナ賞を受賞する。90年に『こうばしい日々』で産経児童出版文化賞、坪田譲治文学賞を受賞する。2002年『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』で山本周五郎賞、04年『号泣する準備はできていた』で第130回直木賞を受賞する。

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横里 隆
(本誌編集長。万歩計とともに毎日歩いている。1万3000歩/日が目標なので、会社から1時間半近くかけて歩いて帰ったりしている)

兄弟に共感!
江國さんに感謝!

乱暴ながら読書の楽しみを2つに絞ると、「発見」と「共感」だと思う。この作品から受け取ったのは強烈な後者だ。大抵の男子の中には女子には見せられないイケてない自分がいて、間宮兄弟はそれを具現化していた。見事なのは、そんな兄弟の立ち居振る舞いに嫌悪感を感じないところだ。おそらく江國さんは「発見」の視点で兄弟をとらえているからだろう。それは決して「否定」や「嫌悪」ではない。キレイで才能もあって、人としての強度が高い(であろう)江國さんが、世間の女子が見向きもしなかった男の間宮いやマニアな部分に興味を示してくれた! 「承認」ではないし、ましてや「恋愛」感情などではまったくないけど、恋愛至上主義が跋扈するこの時代に「そんな幸せもありかもよ」と微笑んでくれたのだ。世界中のイケてる女性の代表として。江國さんありがとうありがとう(泣)。全男子共感必至! そして全女子に理解を求む! 一冊。


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稲子美砂
(本誌副編集長。主にミステリー、エンターテインメント系を担当。)

恋愛に必要なものを
考えるテキストにも

30歳過ぎても一緒に住んでいて、休日もともに過ごすことが多く、童貞も連れ立ってソープに捨てに行った――男兄弟で実際ここまで仲がいいという人たちに出会ったことがなかったので、ちょっと違和感があったのだが、女性に置き換えれば、まあこんな姉妹はたくさんいる(性的部分のあけっぴろげさはさておき)だろう。読んでいて非常に心安らぐ小説である。間宮兄弟は「むさくるしい」「おたくっぽい」という外見は男性的なのだが、内面的には非常に女性っぽい二人だと思う。仕事にあくせくするわけでもなく、ほどほどに家事もし、季節感を取り入れた生活を心がける。自分の好きなものに対する頑固さも、それは異性の趣味にしても一緒で、女なら誰でもいいというわけではないのだ。彼らはなぜモテないのか。心根も優しくおだやかで、本や映画の趣味もいいのに。外見のことよりももっと別のところに問題がありそうだ。江國さんは「もうちょっと大人になってほしい」と言っておられたが……男性陣はモテない理由をどう読んだのか気になる。


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岸本亜紀

(怪談、ミステリーを担当。日本唯一の怪談専門誌『幽』の第2号、12月10日発売予定! ボリュームUPしてるので乞うご期待!!)

江國さんのクールな視点と
想像力に感服!!

この本を読んだ同僚(編集者)の男子が口をそろえて「いや~よかった」という。その男たちはもちろんオタクである。オタクの心、わしづかみである。江國さんの周辺には絶対いないであろう男たち。私の大学にはそのテの男子はいた。でも家に遊びに行ったりご飯を食べたりなんかは、もちろんしなかった。江國さんだって、それくらいの距離感が絶対あるはずだ。にもかかわわらず、オタクたちにとって超リアルな世界を描いた。すごいことだ。文中に「社会なんて、小学校と同じだ」と明信が思うシーンがある。「みんな平気で周りに迷惑をかける」と。オタクの人たちは周りに迷惑をかけない。そして、セカイを静かにマイペースに見つめている。そんなオタクたちを良しとも悪しともせず、オタクが涙するほどの共感を描いた江國さんの筆力と想像力にひれ伏した。


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関口靖彦
(今月の個人的イチオシは飛浩隆さんの『象られた力』(ハヤカワ文庫)。精緻に組み立てられた物語が、終盤、一気に奔流となって爆発する!)

この本を通して、
読者は自分を見てしまう

本書10ページの間宮兄弟の描写に打ちのめされた。恰好わるい、気持ちわるい、おたくっぽい、むさくるしい(後略)――デスメタルで怪獣おたくの身としては、ほかの本を読んだときとは明らかに異質な感情移入をしてしまった。真っ正直に働き、おだやかに季節を楽しみ、自宅での暮らしを整える兄弟。わかるよその気持ち。彼女も親しい友だちもいなければ、そうするしかないもんな。自分がひとりであることを認め、しかしやさぐれまいと思えば、そこに辿りついてしまうのだ。恋できないからこその充実、という矛盾。そこで一生を終えるのか、踏み出すのか、転げ落ちるのか、読み手によって異なる読後感を残すであろう、鏡のような本だ。


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波多野公美
(WEBダ・ヴィンチで角田光代さんの素敵な「本にまつわる短編小説」が連載中です。毎週金曜日更新。本好きにはとりわけおすすめ!)

恋愛だけが足りない、

間宮兄弟の幸せな日々

間宮兄弟の生活は、とても素敵だ。まず、彼らはごく普通の社会人として、自立している。冬至にはかぼちゃを煮てゆず湯をたのしみ、母親の誕生日には手のかかるリクエストを協力してかなえてあげる。なにより、お互いを心から大切に思っている。深い理解で相手を思い遣りながら、たくさんの思い出と一緒に、静かな日々を積み重ねている。優しさが隅々にまで満ちている二人の世界は、ちいさな桃源郷だ。ただ、そこに彼らの恋人の姿はない。恋がなくても豊かな生活を送る二人の姿から、あなたには何が透けて見えるだろう? 読む人の数だけ、違うものが見えてくる物語だと思う。このページのコメントが、全員バラバラなように。


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飯田久美子
(「なぜ江國香織がもてない男?」と思った人、「江國香織をもっと知りたい」と思った人、特集も読んでください。江國さんのインタビューなど、江國さんの魅力に迫る企画がいっぱいです。)

恋愛がなくても幸せって、
あり得るの?

まず『女性セブン』で連載が始まったとき、江國さんと女性週刊誌の組合せにびっくりした。次にタイトルを見てカッコイイ兄弟の話かと思って読み始めたら、どうもヤバそうな兄弟の話で、またびっくり。でも一番びっくりしたのは「この先誰ともつきあえないとしても、間宮兄弟みたいに楽しく暮らせたら ……」と直美が思う場面。恋愛のない人生なんて絶対不幸だという考えに縛られているので、目からウロコが落ちる思いがしました。それにしても、兄弟のもてなさっぷりは凄い。何度も声を出して笑い、それだけでは飽き足りず友達の噂話をするみたいに間宮兄弟の話を周囲にしまくったので、ヤバそうな人や言動に「間宮だ」と言うのが最近の流行りです。


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宮坂琢磨
(岩明均さんの『ヒストリエ』(講談社アフタヌーンKC)がついに発売。待ちに待って、待って、待った甲斐あり! ダイエット? そんなの後だ)

恋愛至上主義なんて!って
強がっていましたが……

少年の心を失わない(いい意味でも悪い意味でも)間宮兄弟の暮らしぶりは、学生時代の懐かしさと、少しの後悔を思い出させる――と書いてはみたが、正直この兄弟がなぜ女性にとって恋愛対象外なのかわからない。どこが、痛いのかわからない。周囲の人間に感想を求めてみたらば、「自分にあるオタク的部分と共感したね。もてない中学校時代を思い出したよ」。どうやら僕は間宮兄弟とほぼ同化してしまい、彼らを客観視できていないみたいだ。だから、僕にも彼女ができないのか。なるほど。間宮兄弟が楽しそうだけど、なにか閉塞した、寂しさを感じるのもそのせいか。……虚しい。


イラスト/古屋あきさ

読者の声

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