2004年10月号 『ホムンクルス』 山本英夫

今月のプラチナ本

更新日:2013/10/7

ホムンクルス 1 (BIG SPIRITS COMICS)

ハード : 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:Amazon.co.jp/楽天ブックス
著者名:山本英夫 価格:566円

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今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

2004年09月06日

『ホムンクルス』1~3巻 山本英夫  小学館ビッグ 530円~550円

homncls.jpg  家もなく、仕事もなく、金もなく、一流ホテルと浮浪者の溢れる公園との間で、カーホームレス(車上生活者)をしている名越進は、金髪、ピアス、タトゥーを入れた医大生、伊藤に声をかけられる。それは、報酬70万円で、頭蓋骨の額部分に穴を開ける“トレパネーション”の手術を受けないかというものだった。          
 手術を受けた名越は、伊藤の目的であるトレパネーションによって覚醒させられる「第六感」研究の被験者になる。手術後も変化の兆しはなかったが、そんなある日、街を歩く名越の左目に写ったものは……。
 前作『殺し屋1─イチ─』同様、精神科医の名越康文氏を原作ブレーンに迎え、現代人の持つ心の闇を、緻密な筆と大胆な想像力でリアルに描きだす、意欲作。やまもと・ひでお●1968年埼玉県出身。弘兼憲史のアシスタントを経て1989年『SHEEP』(竹書房、鷹匠 政彦/原作、山本英夫/画)でデビュー。同年『おカマ白書』(小学館)がヒットする。その後、『新のぞき屋』『殺し屋イチ』(いずれも小学館)など社会的な問題をテーマとして扱う作品を発表し、波紋を呼ぶ。現在は『ホムンクルス』(小学館)を『週刊ビッグコミックスピリッツ』にて連載中。

ほむら・ひろし●1962年北海道生まれ。サラリーマン歌人として、90年に歌集『シンジケート』(沖積舎)でデビュー。短歌界に衝撃を与える。歌集として『ドライドライアイス』(沖積舎)、『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』(小学館)などがある。他にも短歌入門書や絵本の翻訳も手がける。

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横里 隆
(本誌編集長。最近「これからはてくてく歩くのだ」キャンペーンを始めた。ひとりで。具体的に歩くだけでなく、気持ちもてくてく行ければと願っている)

いびつで怖ろしい
人の心を抱きしめて

10代の頃、人の心が見える眼鏡がほしいと真剣に願っていた。もしそれがあれば、関係性にビクつくことなく、堂々と生きられると思っていたから。しかし、果たして本当にそうなっていたか……。主人公・名越は、まさに人の心のカタチを見る能力を得た。眼鏡の代わりにトレパネーションという違法手術を経て。そうして彼は、人の心がいびつで怖ろしい形であることを知る。しかし、まるでモンスターにしか見えない“心が不安定な人々”を前に、名越は逃げない。逃げるどころか、ときに彼らを抱きしめ、共に泣き、心の安定に導く。たとえ自分の心が、アンバランスな相手の心に侵食されようとも。“見える”力は、自分のために使うものではなく、“見られる”側の人にとって活かされるべきものなのかもしれない。そうか、あの頃の僕には、眼鏡を手にする資格はなかったようだ。


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稲子美砂

(本誌副編集長。主にミステリー、エンターテインメント系を担当。)

見えてしまう苦しみか、
知ることで感じる優越か

頭蓋骨に穴をあけるなんて物騒なことをしなくても人の心が見える力を授けてもらえるとしたら、あなたはそれを選ぶだろうか。『ホムンクルス』を読むと、人を人として見られなくなるというリアルな恐ろしさを実感しながらも、見えるものの多種多様な異形ぶりに好奇の胸は躍る。考えようによっては神にだってなれるのだと。そんな設定だけに頼らずにストーリーも練りこまれていて、とにかく先が気になるマンガ。名越の過去は? あの対決は????? 3巻、とってもいいところで終わっちゃうんだもん。この先は『スピリッツ』買うしかないかと観念させられる。


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岸本亜紀
(怪談、ミステリーを担当。日本唯一の怪談専門誌『幽』の第2号、12月刊行に向けて準備に入りました~。みなさん、お楽しみに!)

錬金術師や陰陽師が試みた
神の領域を犯す禁断の物語

ホムンクルスというとゲーテの悲劇『ファウスト』に描かれたガラスの容器の中の生命体を思い出す。中世ヨーロッパの錬金術師が神の領域にまで踏み込んで作り出した生命体のそれだ。この作品の主人公・名越は錬金術的手術によって“心の闇をビジュアルとして視ることができる”能力を得たが、その“視えるもの”の形のバリエーションがなかなかに面白い。そこらの霊能者の霊視なんか比にならない。だが見逃してはいけないのは、ホムンクルスを視ることができるということは、自分がホムンクルスであることにほかならない。名越の抱える闇は何か。神の領域を侵して誕生したホムンクルスが、罪深いホムンクルスを救うことができるのか。反魂の術のようなマジカルな展開が楽しみな作品だ。


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関口靖彦
(つい昨日読み終えた、津原泰水さんの『綺譚集』が凄まじかったです。まさに目くるめくような文章。うつくしく、昏い幻想の海に溺れました)

絵に打ちのめされる、

マンガならではの快楽

次は何が現れるのだろう、どんな絵が目に飛び込んでくるのだろう。ページをめくる速度がどんどん上がっていく、その高揚感。ひとつの見開きを数秒で読み切ることができる、マンガというメディアならではの快楽だ。本作の魅力は、その一点に限っても相当のものだ。見たこともない怪しいものどもを、すぐ隣りにいるかのように生々しく描き出す画力あればこそ、この物語は誰をも圧倒する威力を持った。本を閉じてからも、折々に異形のものが脳裏に浮かび、自分の視覚が狂いだしたかの感覚。それは恐ろしく、そして心地よい。


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波多野公美
(トロ・リサーチなど担当。この夏は舞台に大ハマリ。バレエ、ダンス、演劇、歌舞伎などなど。『盤上の敵』(原作/北村薫)が良かった! )

現代のゆがみを緻密に描いた
エンターテインメント寓話

現在3巻まで刊行されている、山本英夫の力作マンガである。3巻を読了しても、これはまだ物語の序章にすぎないと思わされる。それくらい、この先に待っている“何か”を期待させられる作品だ。主人公の転落を描く物語は多いが、『ホムンクルス』では、主人公の名越進は、転落しきった34歳の男。数カ月前は一流ホテルのドアマンに名指しで挨拶されるほどだったが、今、手元にあるのは107円だけ。みじめに落ちぶれたのに、プライドが邪魔してホームレスになりきれない名越の姿は、切なく哀しい。特殊な能力を得た名越は、新しい居場所を見つけられるのだろうか。今後に期待!


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飯田久美子
(この前、万引きしました。道端でガリガリ君を食べていたら、店員さんに声をかけられました。ボーっとしていてお金を払うのをすっかり忘れていたようです。自分が怖かった。そこまでガリガリ君を食べたいという自分の闇が怖かった)

お化けや幽霊よりも、
生きている人間のほうが怖い

怖かった。頭蓋骨手術をするところも怖かったし、医大生・伊藤の魔術師みたいな顔も怖かったし、ヤクザの親分も怖かったし、主人公・名越が見る幻覚(?)も怖かった。でも1番怖かったのは、名越がひとり車の中で、何かに憑かれたように東北弁でひとりごちているというか、うなされているところ。その怖さの正体は、たぶん名越の持つ闇の深さによるものではないかと思うが、まだ始まったばかりでわからないので、いっそう怖い。名越の闇は徐々に明らかになっていくのだろうか、気になる。あと、「作品中の『トレパネーション』は極めて危険な行為です。絶対に真似しないでください」っていう帯も怖かった。ついやっちゃったらどうしようと思って読み始めたけど、そういうものではなかったので少し安心しました。


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宮坂琢磨
(健康診断で体力年齢32歳と診断される。まさか実年齢+10の値がつくとは……。もう笑うしか )

僕は自分の心の闇を
正視できるのだろうか?

『ホムンクルス』は山本英夫氏の以前の作品『新のぞき屋』と“心を見る”という点でよく似ている。『新のぞき屋』はのぞき屋である主人公“見”が、義眼を入れた左目から調査対象者の心の奥を見透かす、という話である。今作の主人公、名越も“左目”から、道行く人の、心の闇が形作る本性を見ることになる。『新のぞき屋』では対象の心の闇を最終的には言葉で説明していたが、今作『ホムンクルス』ではそれを、“わかりやすく”けれど僕たちには想像すらできないビジョアルで迫ってくる。


イラスト/古屋あきさ

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