文房具が擬人化! 『夏雪ランデブー』の河内遙が描く純愛短編集

RC100

2015/4/21

文房具ワルツ

ハード : 発売元 : 小学館
ジャンル: 購入元:KindleStore
著者名:河内遙 価格:※ストアでご確認ください

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 どうやら文房具ファンというのは少なからず棲息しているようで、私は万年筆を見るとつい買ってしまいたくなる。ただ悔しいことに、このところの手元不如意につき、あまり高価なものは買えない運命に直面している哀しさに陥っている。今使っているのは、ペリカン・ジュニア。文字通り子供向けの、万年筆の入門機といった風情の商品なのだが、これがどうして手になじみやすく書き心地も存外悪くない。さすがにペリカンである。

 このコミックでは、その文房具達が助演しているのだ。いや、ある意味では主演でもあるのであって、いわゆる語り手の役割を引き受けているのである。鉛筆、コンパス、消しゴム、定規たちが、持ち主の行動や想いにあーだこーだ茶々を入れる趣向。もちろん万年筆も登場する。ボロ市で購入した何やら復刻版も近々発売される、本物なら、相当お高いものとお見受けした。

 それで、文房具達の話題はいつもご主人様の恋模様。持ち主にして評定のターゲットとなるのはナズナという女子大生である。彼女は15歳の時、飲酒盃(いさはい)というすこぶる変わった名前の小説家を知り、その世界にどっぷりはまったあげく、彼の勤務している大学に入学したご執心ぶりだ。なのに、ふだんは普通に話せるくせに、どうしても心の内を打ち明けることができずにいる。おお、その苦しさよ。おお、その切なさよ。もうメロメロってやつなのだ。これじゃ誰だってつっこみ入れたくなるというもの。

 連作8編からなるこの本のテーマは、「純情」だと思う。「やぁねえ、今どき純情だなんてアナクロ、お下劣ね」なんていってる場合じゃない。「純情」とは下心のないひたむきな心情のことではない。「純情」とはやせ我慢の力のことである。好きな人がいて、怖くてどうしても言い出せない。この時怖いのは傷つく自分を恐れているからではなかろう。秘めている気持ちが2人の間であからさまになってしまう瞬間に怯えるのだ。そんな自分を見つめる自分がいつ終わるとも知れない痛さに耐える、そのまっすぐで一途な心根をば純情と呼ぶのである。

 文房具達にはその純情が痛いほど分かっているからこそ、かえってヤキモキしている。なにしろ、四六時中ナズナのそばにいながら何一つ具体的なアクションのとれない彼らなのだ。時にシニカルに、時に暖かな真情を漏らすのは避けられまい。

 ナズナと飲酒盃の間が、まぁただのカレセンの疑いもないではないものの、どんな行く末を辿るのか、1巻読みきりの作品であるらしいけれど、その描く軌跡をもそっと読みたくなる一冊ではあった。

気張れナズナ!


文房具達は擬人化して描かれている。ちょっと可愛い

飲酒盃先生とふだんは普通に喋っていられる

飲酒盃ってそんなにいいオトコなのかこのあたり読むとメロメロ度への疑いもさす

明治生まれの万年筆君は袴姿。これもなかなか乙

そしていつかナズナの目指すところも小説家に落ち着いている