超消極的な草食ヒーローが活躍? するファンタジーコメディー

ライトノベル

公開日:2011/9/6

ガガガ文庫 Wandervogel

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 小学館
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:相磯巴 価格:378円

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第4回小学館ライトノベル大賞「ガガガ賞」を受賞した作品。筆者・相磯巴のデビュー作である。
  
海に囲まれた世界で新開拓地を目指して飛び立つ「開拓船」。その飛行船で冒険者養成学校である開拓船に乗車し、集った冒険者の卵たち。そこに集まったのは優秀な者たちばかりと思いきや、大間違い。下ネタ好きの少女はいるわ、キャバクラ通いの指導教員はいるわ…。おまけに物語の主人公・ユウキは乗船の資格はないのに、コネで「いやいやながら」乗り込むことになってしまう。

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ファンタジーと聞くと、ヒーローは勇気があり、強く、どんな逆境にも立ち向かっていくもの。「オレが世界を平和にするぜ!」とガツガツ向かっていく。ところがこの主人公、ユウキという名でありながら、とんでもなくどうしようもない少年だったりする。
  
勇者しか抜けないという剣。抜こうと思えば抜けるのに、勇者になるのが嫌だからと抜けないフリをする。子どもの助けを呼ぶ声を聞いても、聞かなかったフリをしようする。頼まれたドラゴン退治から逃げ出そうとする。
  
これほどまでに「いや、お前もっとがんばれよ!」と応援させてしまうヒーローも珍しい。だいぶ情けないヒーローのおかげで作品から目が離せなくなってしまう。ヒーローがこんな状態で、一体誰が世界を救ってやるんだ、と。
  
また、この作品の中で印象的なのが、女子が強いところだ。圧倒的に女子優位。肉食女子に草食男子。この波はファンタジーの世界にまで影響が及んでいるのだろうか。キメるところはキメてくれているから一安心ではあるのだけど…。
  
そして、何より新鮮なのが、このファンタジーコメディだということ。「ファンタジーの王道」をやっておきながら、そこに冷めた目でツッコミを入れている。お願いがありますと言われれば、「勇者が頼まれることなんて、そんなに種類ないでしょ」と冷ややかな反応。やらなきゃいけないような気がしてきた、って悲しい反応。
  
いやいや、そこは熱く「自分が世界を救ってみせます!」って嘘でも言ってほしい! でも、終始、そんな状況なのかと思いきや、最後はしっかり締めており、ほとんど描かれることがなかった、心の奥の情景を描き、ホロリと泣かせる。
  
ファンタジーをあまり読んだことがない人でも軽いテンションでも読めるし、ファンタジー好きには新たな切り口から楽しめるのではないだろうか。迫力ある戦闘シーンも必見。それ以外のシーンがまったりしているので、更にその迫力が増しているように思われる。
  
あ、あと、普段、草食男子に一言物申したい! と思っている女性も痛快な気分で読めるかも、しれません。

ファンタジーっぽい雰囲気を醸し出している1ページ目

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