貞淑な人妻が嗜虐の快楽に目覚めて堕ちていく。縛りといたぶりの映像的な描写にエロスが匂い立つ

小説・エッセイ

更新日:2012/3/5

人妻

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 幻冬舎
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:団鬼六 価格:594円

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大企業の部長を夫に持つ貞淑な美貌の人妻、園江(6歳の女児の母)が、同窓会で出かけた熱海の温泉街でアングラ劇団の演出家だという男と知り合って体を許し、罪悪感にさいなまれながらも、男の手練手管で被虐の情事の喜びに目覚め、どこまでも堕ちていく…。

筋立てはそこいらのポルノと変わらないが、これが団鬼六の筆で描かれると、女性の私が読んでもゾクッとするほどエロティック。むしろ、類型的な筋書きだからこそ、鬼六先生のねちっこいまでの精緻な描写の冴えが楽しめた。

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麻縄で縛り上げられ、言葉でもいたぶられ、壮絶な色香を放つ人妻の裸体や快楽の表情が、伊藤晴雨の縛り絵のような幻想美を伴って浮かび上がる。そして、羞かしさにもだえながらも、歯を喰い縛って耐えなければならない園江の情感が読み手の心を昂ぶらせるのだ。

貞淑の仮面をはいで、淫蕩な性の奴隷に調教していく。男の征服ロマンをかき立てるこんな人妻、絶対にいそうにないけどね。それにしても、そこまで転げ堕ちて行かなくても…。エピローグの惨さに、果てないSM地獄を見た。世間知らずのうぶな人妻は決して手を出してはいけない底なしの世界。まさに蟻地獄だわ。

ところで朝日新聞の5/28夕刊の「惜別」欄によると、団鬼六さんの妻の安紀子さん曰く、「結婚するとすごい世界が待っているのかと思ったら、何もありませんでした」。SM界の巨匠の夫婦生活はノーマルだったと知って、鬼六先生の想像力の豊かさが愛おしくなりました。好んで書いた言葉は「一期は夢よ、ただ狂え」だったそう。

意外にも女性に鬼六ファンが多いのは、たとえ陵辱モノであっても、そこに女心をくすぐるタブーの耽美が丁寧に描き出されているからだと思う。ご冥福をお祈りします。

目次です。章のタイトルを辿るだけで、堕ちていく様が…。それにしても第一章の「肉の開眼」ってすごい表現だわ

「園江の若奥様風にサイドを膨らませた髪型も今は乱れて彼女の線の綺麗な頬におくれ毛が数本、もつれかかり、それが壮絶な色香となって辰夫の眼を楽しませる…」。ちょっと古風なこの描写が読み手の想像力を刺激し、官能をかき立てる

ついに奥さん、縛られてしまいました。乳色の肩先、腹部の絹のような滑らかさ、ぴったりととじ合わせている乳白色の太腿など、映像的な描写は鬼六先生の真骨頂。「人妻蟻地獄」のタイトルで日活ロマンポルノにもなったみたいです