爪のあかを煎じて、彼らに飲ませたい想いがあるのだ
公開日:2011/9/4
吉田茂の爪のあか
ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android | 発売元 : 明日香出版社 |
ジャンル:ビジネス・社会・経済 | 購入元:eBookJapan |
著者名:村石利夫 | 価格:756円 |
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著者は月刊「コミュニズムの諸問題」の編集長として活躍し、吉田首相秘書・村井順と親交のあった村石利夫。
ディプロマティックセンス(外交感覚)があり、国民とともに苦労を分け合い、敗戦後の日本を復興させた政治家吉田茂。吉田が9歳の時、養父で、貿易商だった吉田健三が亡くなり、遺産を相続した時点から、昭和42年、彼が息をひきとるまでの政治活動や発言と照らし合わせ、吉田の人生、政治哲学を日本の経営者は参考にすべしというのが、著者の考えである。確かに激動の時代に、政治的実績を残した吉田茂の功績は高い。彼の哲学が、経営者の哲学にも通じると著者が考えるのは当然であろう。
読んでみて、私が印象に残った吉田の言葉は、「外套を着るから街頭演説」である。ある冬の選挙。大切な一票を貰うのに、外套を着たままで挨拶するとはなにごとかと、聴衆から野次が飛んだ時、吉田が答えた言葉である。吉田の態度に怒るどころか、聴衆は和み、結局吉田は彼らの心を掴んだという逸話である。やはり吉田はユーモアにも長けた人物だったことがわかる。
だが、彼の人柄ゆえ、あのパフォーマンスを引き起こしてしまう。昭和28年のバカヤロー解散である。国会での質疑応答中、吉田が西村議員に対して「バカヤロー」と暴言を吐いたことがきっかけとなり、衆議院は解散する。後世では、吉田のパフォーマンスのみが注目されているが、この本によると、彼は即座にフォローをしているということがわかった。「ただ今、私が言った言葉は、明らかに不適当だと思うから、はっきりと取り消す」とすぐに弁明したことが記されている。その行動に効果はなかったが、それでもあらゆる政治的局面において彼のとった対処法の一面を知ることができる。
確かに吉田の哲学、行動には経営者が見習うべきことはあると思う。だが、著者が一番伝えたかったこととは、政争にあけくれ、政治指針のない現在の政治家に対し、吉田茂の爪のあかを煎じて、彼らに飲ませたいという想いなのだろう。それはこの本が出版された平成6年と現在でも、変わらないはずである。
目次。吉田茂の歴史に沿って、進んでいく
今、なぜ、「吉田茂」なのか――。著者の意見が記されている
序章の評伝「吉田茂」。ここで初めてディプロマティックセンスというキーワードが出る
第一章のお言葉。「潔く負けることだ」というメッセージが実に吉田茂の人柄を表しているともいえる (C)村石利夫/明日香出版社