家族をテーマにした12編のショートストーリー。家族ってややこしいけど、やっぱり温かい!!

小説・エッセイ

更新日:2012/3/7

リビング

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:重松清 価格:540円

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12編のショートストーリーからなる重松清さんの短編集「リビング」。

この本、婦人公論の連載をまとめたものなのですが、12編のお話は、いずれも婦人公論の特集に呼応する内容だったそうです。特集になるようなモチーフは、それだけ女性にとって切実なもののはずだからと、重松さんからの提案で、そういったルールにしたがって連載が始まったというわけです。

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必然的に夫婦を扱ったお話が多く、いまだ独身の私“ぷりまべら”は、「そうそうこういうことってあるよねぇ」という風には共感できないのが残念なのですが、どの作品も味わい深く、堪能できました。

12編のうちの4編は、「となりの花園」というシリーズ。春、夏、秋、冬と連作になっていて、引越し運の悪い夫婦が、新たな隣人と交わりながら、時に互いにぶつかり、そして分かり合い、共に生きていく日々をつづったもの。モノトーン好きで無機質な内装や家具で部屋を統一しているファション雑誌編集者の夫とCGイラストレーターの妻のお隣に、突如「お花畑」とみまがうほどの色鮮やか、いや、ごてごてとした庭が出現。まずはその庭に悩まされ、そして、およそ正反対といってもいいほど価値観の違う隣人夫婦の存在にふりまわされていきます。

100歳近いおばあちゃん同士の一風変った友情を家族の目線で描き出した「千代に八千代に」。1泊2日の同窓会をかねた一人旅に突如出かけることにした30代半ばの主婦のお話「一泊ふつつか」等、家族の日常に起こる出来事を扱った作品はどれも興味深いのですが、私が特に気に入ったのは、「いらかの波」。小さな港町の公園に5月の連休に訪れたのは、夫婦、家族連れ、独り者のカメラマン。数え切れないほどの鯉のぼりがあがる町をそれぞれの思いで眺める彼らの心情が描きだされています。

小説を楽しんだ後は、それぞれのお話が掲載されていた婦人公論の特集はどんなだったのかなぁとちょっと想像してみたり、そんな楽しみ方もできる一冊です。

連作「となりの花園」は、短編集の軸になるように配置されています

「ウディ・アレンの家のとなりに、『赤毛のアン』が引っ越してきたようなものよね」――とは、「となりの花園」での隣人の庭に辟易した主人公の言葉。悲しいことに、隣人って選べないんですよね