しなやかなやさしさを失わないための永遠の青春小説

小説・エッセイ

更新日:2012/3/2

赤頭巾ちゃん気をつけて 改版

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 中央公論新社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:庄司薫 価格:432円

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たまに人生相談のサイトなんかを見ることがあるのだが…え、見ませんか?

「彼からメールが来ません」とか「お隣から奇妙な音がします」はては「まゆげが太すぎで困ります」とか。そんなお悩みに全国の皆さんがよってたかって有益無益な解答をしていくのが面白いんだけど、たまに「炎上」しているのがあるんですね。莫大な怒りのレスがついている。

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よく見るとたいてい、質問者がどこか他人を下に見ていたり、ばかにしていたり…そう、J.D.サリンジャー作「ライ麦でつかまえて」のあの主人公の少年コールフィールドみたいやつなんだ。

で、この「赤頭巾ちゃん気をつけて」。文体が「ライ麦~」とそっくりなのだけれど、他人のことをひたすらインチキだのバカだのばっかりいってるコールフィールドに対し、「赤頭巾~」の主人公薫君は自分のことをまるでダメなやつだと言い続けてるわけ。どっちも過剰な自意識の裏返しには変わりなく、若さバカさの結晶なのは同じだけど、薫君には屈折しつつもどこかそんな自分を冷静に見つめる目がある。そこが信頼できるのだ。世界とフェアに向き合う格好良さがある。

コールフィールドが相談サイトに投稿したら、炎上必至というか、もしかしたら検閲にひっかかって掲載もされないかもしれない。でも薫君の相談は、なんかみんな無碍にできないかも。他人事じゃなくて。優しいレスがついちゃったりして。

学生運動華やかりし混迷の時代を背景に、自らのあり方、ガールフレンドとの交際などが繊細に悩み抜かれる。自分にダメだダメだと×をつけ続けた青年が、最後の最後にもうそんなフェアネスなんかいらないんじゃないかと、本当に駄目になってしまう寸前に出会う「奇跡」。何度でも読み返せる永遠の青春小説なんである。

「ライ麦畑でつかまえて」によく似た読みやすい文体

薫君はいつも自分をつまらない若者と疑っている