文明進化の先には何がある? 手塚治虫が半世紀前に提示した人間社会への深い問い

小説・エッセイ

更新日:2012/3/5

鉄腕アトム55の謎 生活人新書セレクション

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : NHK出版
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:布施英利 価格:432円

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空を超えて~♪ ラララ星のかなた♪
ゆくぞ~ アトム~ ジェットのかぎぃいり~♪

1965年生まれの私は、この歌♪を聴くだけで
十万馬力の力が湧いてくる「アトムの子」である。

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いまや世界のロボット技術の先端を走る日本。
それを支える科学空想力やロボット共生観は、
手塚治虫さんの深い人間愛から生まれたのだ。

あぁ、手塚さんを世界科学技術庁長官にしたかった。

科学技術は、人間の心の拡大鏡である。

より早く走りたい欲望(心)から車を生みだし、
より高く飛びたい欲望(心)から飛行機を生み、
より広く繋がりたい欲望(心)からFacebookを共進させる。

ある意味、科学技術文明の進展は、
心をロボット(機械)に付託してきた軌跡ともいえる。

その心が、+に働いた時どうなるか?
その心が、-に働いた時どうなるか?
そもそも、心って何か? 心を持つ人間とは何か?
その心は、誰か(ロボット)に移植できるのか?
遺伝心は、成長し、子孫に伝播することができるのか?

アトムの描く手塚さんの人間観は、禅僧のように深く、
解剖する布施さんの手裁きは、B.ジャックのように鋭い。

ロボットの性能が、人間の性能にとって代わる
19世紀の機械論(人間代替)のパラダイムから、
ロボットの性能が、人間の知性と共存する
生命論(人間共生)のパラダイム。

そこへの提言を50年前にした、
手塚ワールドの深さ、広さ、高さを堪能してほしい。

「空を超えて~♪」の後の歌詞を覚えているだろうか? 1番「心やさしい♪ ラララ 科学の子」「心ただしい♪(同)」「心はずむ♪(同)」。これこそ氏の眼差しである

呼吸、言語、五感を超えた不思議な力、手足。ロボットを見つめれば見つめるほど、私たちの体に宿る当たり前の機能が、奇跡のような機能に感じてくる

世界の科学文明や文化に影響を与えたScience Fiction(預言書)を、半世紀以上前に描いた氏は、もっと大きなリスペクトで崇められていい。「アトム大使」という名は氏自身に送られるべきだ