平安の世を舞台に、安倍晴明が物の怪の怨念を解きほぐし、呪術を繰って退治する怪異短編集

小説・エッセイ

更新日:2012/3/2

陰陽師

ハード : iPad 発売元 : Bungeishunju Ltd.
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著者名: 価格:450円

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舞台は平安時代。

陰陽師の安倍清明のもとに親友の源博雅が事件を持ち込み、晴明が解決するというパターンで、「妖しのもの」退治の摩訶不思議な物語が6話編まれている。

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陰陽道にのっとって呪術を操る安倍晴明は、涼やかな目元に、赤い唇、背のすらりと高い色白の美男子だが、とらえどころのない男。無骨で実直な源博雅が好対照となって、晴明のキャラを引き立てる。

闇が闇として残っていた時代で、人も、鬼も、物の怪も、息を潜めて一緒に棲んでいた。そんな平安の世を想像しながら読むうちに、夢枕獏の豊かな表現力に誘われて、気がつけば物の怪が跋扈する幽玄の世界へとすんなり降り立っていた。

第一話の「玄象といふ琵琶鬼のために盗らるること」は、今昔物語をベースにしたもので、百人一首に出てくる蝉丸も登場して琵琶を弾く。羅生門に棲む天竺(今のインドかな)の死霊が盗んだ琵琶を取り戻す話だが、差し出した女が喰われたりしてけっこう生々しいのに、この死霊がとてもかわいそうになるから不思議。「梔子の女」は、般若心経の「如」の字を使った謎解きのような言葉遊びが楽しい。ちなみに梔子はクチナシだ。

頭に映像を浮かべると、血肉が飛び散るスプラッタな場面が多いのだが、なぜかホラーぽくはない。登場する物の怪に人間のどうしようもない業や、やるせない哀切さがあって、「そうだったのね」と心にしんみりと余韻が残る。また、琵琶の調べやクチナシの香り、酌み交わす酒と肴など、五感に訴える描写にも想像力が喚起される。ひょっとしたら現代の私たちは、すっかり感受性が鈍くなって、そばにいる魑魅魍魎の存在を感じる力を失ったのかもしれないね!

グーグル検索機能や蛍光ペンもあって便利。電子本はこうでなくっちゃ。

オムニバスのように、巡り変わる季節ごとの6話で構成されていて、風景の描写も魅惑的。どれも寓話的な趣があって、読後しばらく不思議な余韻が残る

単語をしばらくタップすると、蛍光ペン、本文検索、Web検索のボタンが現れる。赤の▲で対象にする文章の長さを調節できる。時代物には慣れない言葉がよく出てくるので、その場でネットにつないで調べられるのはとても便利! 「狩衣」「直垂」などといった衣装も、ウィキペディアなどで絵で確かめれば、想像力もいや増すというもの

蛍光ペンを選ぶと、カラーパレットが出てきて、ペン色が選択できる

水色を選択すると、この通り。気になる和歌や引用が出てくると、色をつけておいた