【ダ・ヴィンチ2015年8月号】今月のプラチナ本は『さよなら、ニルヴァーナ』

今月のプラチナ本

2015/7/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『さよなら、ニルヴァーナ』窪美澄

●あらすじ●

14歳のときに少女を殺め、世間から身を隠しながら、元「少年A」としての人生を歩む男。「少年A」を崇拝し、恋焦がれ、「聖地巡礼」を繰り返すファンサイト管理人の少女。自らの娘を「少年A」に殺され、その傷を何年も抱えながら暮らす母親。そしてその環の外にたつ、作家志望の冴えない中年女性。運命に抗うことのできない4人の人生は複雑に絡み合い、思いがけない結末へと帰着する。「少年A」が、彼女たちにもたらしたものとは何なのか。顔を背けたくなるような、人の心の奥底をえぐり出す、慟哭の物語。

くぼ・みすみ●1965年、東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で「女による女のためのR-18文学賞大賞」を受賞、デビュー。受賞作を所収した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞、『晴天の迷いクジラ』で、第3回山田風太郎賞を受賞。著作に『アニバーサリー』『よるのふくらみ』『水やりはいつも深夜だけど』などがある。

窪美澄 文藝春秋 1500円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

なぜ人は物語を書き、読まざるを得ないのか

楽しい本か、つらい本か、と問われたら、これは完全につらい本。だが目が離せない。ぐいぐい読まされてしまう。本を閉じたあとも、この本の“感触”がずっと頭に残っている。神戸連続児童殺傷事件をモチーフに、加害者、被害者の母、加害者に惹かれる少女、彼らを見つめる作家志望の女性を描く小説だ。つらいに決まっている。それでも読まずにいられないのは、このつらさこそが物語というものの本質だからではないか。作家志望の女性は独白する。「人の中身が見たかった。」彼らのことを理解も共感もできない、それでも我々は見たいのだ。下衆な好奇心を手軽に満たすのではなく、つらくてたまらないのに見たいのはなぜか。なぜ人は物語を書き、読むのか。一人称のノンフィクションではなく、作家の物語として描かれた意味を考えたい。

関口靖彦 本誌人気連載『ヒヨコノアルキカタ』(あさのますみ/文 あずまきよひこ/絵)が単行本に! 家族や仕事、日々の「はじめて」を描く、ほんわり笑えて、ときにグッと胸に迫るエッセイです。

 

地獄を生きる、作家の覚悟

状況や立場は違えど、語り手全員が地獄の淵を歩いているような息苦しい日常を生きている。なぜ、こんな生き方をしてしまったのか、抗いがたい気持ちがありながらもとらわれてしまう人たち。私はあえて酒鬼薔薇事件を意識せずに読んだ。窪さんのデビュー作『ふがいない僕は空を見た』の延長にある世界観を感じつつ。加害者の少年Aと彼に惹かれる少女、被害者の母親、三人が引き寄せられていくさまを一歩引いたところで見る作家の視線。「何かを表現するということは自ら地獄に向かうことなのかもしれません。あの出来事を書こうと思ったあなたはそこに行こうとしている」。読んでいてこんなにつらいなら、これを書くことには地獄の苦しみが伴っていただろう。血を吐きながら、物語を綴る窪さんの姿が重なって、地獄を生きる作家の覚悟をそこに見た。

稲子美砂 園子温監督と加藤シゲアキさんの対談が面白かった。すごい勢いで映画を作るだけでなく、さまざまな表現に挑戦されてる園監督のパワフルぶりに驚くとともに、その優しさにうたれました!

 

作家・窪美澄の覚悟と凄みを感じる渾身の作品

神戸連続児童殺傷事件、阪神大震災、地下鉄サリン事件、東日本大震災。この20年余りの間に我々に衝撃を与えたこれらの出来事は、日常は簡単にひっくり返ることを私たちに知らしめた。本書では、そんな人知を超えたものに触れ、また、惹きつけられてしまった人々を描いている。「知りたい」「見たい」というのは、人の自然な欲求だ。一方で本能的にそれを避けたい気持ちもある。だが、それを上回るほどの衝動を持ってしまったら。見なくていい世界をのぞいてしまったら。その結果、彼らは背負いきれない荷物を抱えて生きることになる。救いのない物語だが、目を背けることはできない。なかでも、究極の傍観者として登場する女性作家の凄みはどうだ。ジェイムズの、表現するということは自ら地獄に向かうこと、という言葉が強く心に残った。

服部美穂 号「本と旅する、一泊二日」特集のために、北陸の旅、京都の旅、物語の旅、と毎日旅のことばかり考えています。夢は膨らむばかりなのに、なかなか自分はいけないというジレンマ。

 

読むことに覚悟を強いる作品かも

後味はもちろん悪い。登場人物の誰もに違和感を覚える、というか全員怖い。特に作家を目指す今日子の傲慢で醜悪な欲望への向き合い方には、吐き気がした。……なのに読むことを止められなかった。早く物語の終焉に到達したいという思いと、私たちの中にも、自分とは相いれないと思っている登場人物たちの“怖さ”のかけらが存在しているかも、と思わせるなんともやりきれない気持ちのために。今日子の欲望と少年Aの犯罪。隣人だったらどちらが嫌か、答えは出ない。

鎌野静華 ベトナムのザ・ナムハイという素敵なホテルで数日を。昼は白砂のビーチを眺めながらプールで遊び、夜は地元料理を求めホイアンの街へ。極楽すぎた。

 

必然だった18年目の出版

1997年に起きたサカキバラ事件は当時の私にあまり印象を残さなかった。断片的に入ってくる情報には奥行きがなく、オウムが興味の対象だった。本作は90年代に起きた二つの事件と震災を見つめ直し、その延長線上に現代があることを示唆する。少年Aが放つ磁場に引き寄せられた三人の女性の物語は真に迫り、当時私が感じた嘘くささを真っ向から覆した。彼らは現代を生きる私たちと同じようにもがいていた。少年Aが露わにした人間の中身は、今も私たちの内に宿っている。

川戸崇央 本作は『絶歌』とのリンクで語られることもあるだろうが、窪美澄さんの覚悟と誇りと技術は、鈍った頭を再起動してくれる。本当におすすめです。

 

背負い投げをくらった気分

少年犯罪の加害者と遺族、加害者を崇拝する少女、彼らを見つめる女性作家。交差するその目線を追うちに、触れてはいけないものを読んでいるような、重い心の渦を見てしまっているような、そんな感覚に陥る。これまでも著者の作品が好きで追ってきたが、なかでも、「強さのある作品」ではないかと感じた。「こんなことを考えていいのか」という感情の吐露を正面から叩き付ける強さ、「覚悟」のラスト。小説に、背負い投げされたような気分。心揺さぶられるとはこのことか。

村井有紀子 星野源さんのニューシングル『SUN』が素晴らしかったです。聴くと元気が出る、と素直に言える音楽に久々に出会えました。連載はP162へ!

 

追わずにはいられない心理を深く読みたい一冊

凄惨な少年犯罪の加害者と被害者遺族、加害者に惹かれる少女と女性作家。それぞれの視点で描かれるストーリー。共通して感じるのは、立場や状況は違えど、ほの暗く淀んだ日々の渦に飲みこまれて息が吸えない、陰鬱とした心情だ。陰や負のエネルギーは引き合うのだろうか。事件や加害者との関わりを止められずにいながら、一方でそれを間違っている、止めてほしいと考えるアンビバレントさも見せる登場人物たち。人間の心にひそむ陰の部分を深く抉り取った小説であると思う。

地子給奈穂 慢性的な首こり・肩こりは職業柄だと思っていたのだが、どうやら典型的なストレートネックであるらしい。枕のオーダーメイドを検討中です。

 

業を代わりに背負ってくれる本

救いのない物語である。それなのにページを繰る手は止まらない。言うのも憚られるが、それはきっと、登場人物たちの醜悪な欲望や妄執が、どこか自分の中にも存在するものだと感じさせられるからだろう。心の片隅で自覚していても、絶対に口には出せない醜い気持ち。それを代弁してくれるこんな本こそが、人の心を救うのかも知れないと思わされてしまった。人の業から視線を外さずに物語を紡ぎ続けてきた作者の、一つの到達点であると思う。入魂という言葉が似合う一冊。

鈴木塁斗 最近とにかくツイてないので、邪気を落としにスカイダイビングに行って参ります。運悪くパラシュートが開かないなんてことがありませんように。南無。

 

傍観することを拒まれる、恐ろしさ

人を殺めた者。その殺人鬼に恋い焦がれる者。そして、それを物語らずにはいられない者。「人間の中身を知りたい」という欲望に抗うことのできなかった彼らを巡る本書の引力に、圧倒されながら引き込まれていく。そして、ページをめくる手が止まらなくなった時、自分もまた、その「知りたい」という欲望に屈した一人なのだと思い知らされるのだ。読後、私たちの喉元に突きつけられているのは、「無関係な傍観者」であることなど決して許されないという現実だ。

高岡遼 はじめまして! 新人です。十年前(中学生でした)から、毎月楽しみに読んでいた『ダ・ヴィンチ』を作る側になる日が来るとは……がんばります!

 

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