ラノベ風味の極上大河ロマン! 琉球版「とりかえばや物語」は学べて笑えて面白い

小説・エッセイ

更新日:2012/3/7

テンペスト 第一巻 春雷

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:池上永一 価格:626円

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「テンペスト」というのは「嵐」の意ですが、同作はまさしく吹き抜ける嵐のようなエンターテインメント。「琉球」という言葉の響き、表紙のいかめしさ、作品の長さから敬遠している方がいたら、もったいない、損していますと申し上げたい。

なぜならこの小説、確かに小難しさはなきにしもあらずですが、悪役がマジで「げへへ」と笑ったり「泣いちゃうんだから!」と拗ねる女が出てきたりと、なんちゅーか、ギャグめいた台詞やシーンが頻発するのであります。

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琉球王朝末期を舞台に、運命の子・真鶴の嵐のような運命を描いた大スペクタクルロマン。女は学ぶことを許されない時代に、宦官の「孫寧温(そん・ねいおん)」として科試を首席突破し役人となった真鶴は、のぼりつめていきながらも突然の恋に身を焦がし、敵多き宮廷での華々しい活躍から一転、流刑になったり、なぜか側室として王宮に舞い戻ったり、あれやこれやと大忙しです。

この寧温、とにかくキャラが濃い。天女のような美しさは宦官のふりをしていても押さえつけられるものではなく、男も女もみんなその魅惑の虜。顔は変わってないはずなんですが、「真鶴スイッチ」「寧温スイッチ」の切り替えを脳内で行うことで、ごく少数の鋭い人(霊力ある人とかド変態とか)しかどんなに親しくても本人を目の前に気づかないという。

政治をやらせても機を織らせてもなにやらせても誰より優れたスーパーウーマンなわけですが、出るくいは打たれるという諺のごとく、とにかく打たれ叩かれ、波乱万丈な人生を送る彼女を、私は超人ヒーローのような感覚で読んでおりました。なんていうか、「ありえない」が「すがすがしく面白い」。水戸黄門や暴れん坊将軍だって「そんな馬鹿な!」といいたくなるシーンがいろいろあるかと思いますが、その感じと似ています。寧温が常識や規格などものともせず、状況を打破していく様子が心地いいのです。

脇をかためるキャラクターたちがまたいい味出しているんですよね。個人的には「聞得大君」(霊力をもった王族神で王の姉)でありながら陰謀に次ぐ陰謀で自滅の道をたどっていく真牛さんがお気に入り。途中で、むしろ主役は彼女じゃないかと錯覚するほど、その境遇に涙しながら読んでいました。ほかにも、寧温を親友であり好敵手と認めながら焦がれてしまう自分に戸惑い続ける朝薫とか、たぶん誰もが嫌いだろうド変態の徐丁垓とか、台詞や行動は思い余った末に時にギャグに転化し、けっこう笑わせてくれます(そういう意味では2巻がいちばん楽しかった)。

すごいなと思うのは、冒頭にも書きましたが、それらをすべて、琉球王朝の終焉という時代を舞台にし、政治、外交、文化のありとあらゆる側面を描ききっていること。まじめさと茶化し方とが絶妙なのです。すごい小説だ、と読み終わったあと感嘆の息。

4冊もあるのはいやだとか、ハードカバーは分厚いとか、でもやっぱり難しそう、と思った方はぜひ電子書籍でお試しを。読んで損はないはずです。

運命の子が生まれる冒頭は、かなり真面目で、物語の「嵐」を予感させます

男だと予言されながら女として生まれてしまった赤ん坊。ここから寧温=真鶴の波乱が幕を開けるのです