義理人情あふれる、これぞ浅田節! 自衛隊が舞台の泣けて笑える青春グラフィティ

小説・エッセイ

2011/3/1

歩兵の本領

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:教養・人文・歴史 購入元:eBookJapan
著者名:浅田次郎 価格:540円

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唐突ですが私、自衛隊に入隊したことがあります。

大学2年の秋。「自衛隊行くんだ!」とうきうきしている私に、周囲はまったく理解を示してくれませんでしたが、「浅田次郎とめぐる『蒼穹の昴』ツアー」なるものに2回も参加し、唯一のリピーターだったという母親にまで爆笑されたのにはいまだに納得いきません。

まあ、そんな母娘二代で浅田次郎ファンなわけですが、今回おすすめするのは、その自衛隊が舞台の連作短編『歩兵の本領』です。

「歩兵の本領」はそもそも日本の軍歌のわけですが、高度経済成長の、学生がバリケードをつくって体制に反抗し紛争している時代に、食いっぱぐれていたり借金に追われたりしているときに、うまいこと勧誘されてまんまと自衛隊員になってしまった男たちの姿が描かれています。

そこに「国を守りたいから」という理想があるわけではないのだけど、少しずつ規律が身にしみて、「ばかみたいだ」「こんなのやってられっか」と思いながらも、そこの根本に据えられている「美徳」(と、矛盾)をかみしめながら、隊員になっていくさまを描く、青春グラフィティ。はっきり言って、泣けます。

重たい、むさくるしい、というよりも、義理人情小説の要素が強くそこはやはり浅田節。なによりもリアリティを高めているのはやはり、浅田さん自身が自衛隊に在籍していたという事実でしょう。個人的にはこれとあわせて『勇気凛々ルリの色』という浅田さんのエッセイもお読みいただきたいところ。

最初に入隊したと書きましたが、私が赴いたのは1泊2日の「体験入隊」(なんか知らんが誘われた)なので、きわめて軽いものでしたが、カーキの装いで徒手格闘したり連帯責任で腕立て伏せさせられたりしたというのは、なかなか興味深い思い出です。

あ、引いてますね。そうですよね。いくらファンだからって、行きませんよね、自衛隊。

でもたぶん、あれです。新撰組ファンが、八木邸とかまわるようなものです。「男!」(漢、かも)の匂いと、規律の中でばかばかしいとさえ思えるような大切な何かを守って生きるその姿に、かっこいいと思ってしまったわけです。だから誘われたときは飛びつきました。みんなうらやましがると本気で思ってました。

実際行ってみると、「うわほんとにベッドメイキング完璧なんだ!」とか、「閉めろといわれたロッカーの鍵が閉めてなかった」というだけで参加者(20人以上いた)全員が腕立て伏せさせられたりとか、食事やお風呂の時間がきわめて短かったり、ひどく重たいリュックを背負ってみな一列で山登ったり、小説に通じる空気が生で体感できて個人的には大満足でした。思い出しながら一人でニヤニヤしてましたよ。危ないですね。

そんな、読み終わったら自衛隊に行ってみたくなること間違いなし! の自衛隊小説。「ええ…? 自衛隊…?」としり込みしているあなた、ぜひまずは電子でおためしを。

こんなふうに、丸め込まれて入隊してしまう隊員たち。「トンカツ食べさせてやるから」は常套句

かしこまりながらも、会話はどこかユーモラス。でも人間同士って、そんなものですよね。自衛隊だからといって、常にこわいわけじゃありません (C)浅田次郎/講談社