残酷が家庭を支配する。『冷たい熱帯魚』にも通じる悪夢のようなネオ・ホームドラマ

更新日:2012/4/5

ありがとう (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 小学館
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:山本直樹 価格:432円

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結婚を目前に控えた弟が、引越しの荷造りをしながらポツリと呟きました。
「エロ本は全部処分したけど、山本直樹のマンガは捨てられねー」

姉としての使命感に燃えた私は、「大丈夫! 私が嫁でも山本直樹なら許すから!!」と迷う弟を力強く全肯定。
でもね、「女性に見られたらちょっと」って気持ちもわかるんですよね。
この『ありがとう』なんか特に。

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地元の不良たちにクスリ漬けにされて犯される高校生の長女。
そんな惨状が目に映っていないかのように無気力な母。
暴力に支配される我が身と家庭をドライに見つめる次女。

全4巻、石原知事が大嫌いであろう「ゆがんだ性愛表現」が満載です。
それでも心に引っかかった人はぜひ無料の「試し読み」を。 
1話目のしょっぱなから、その世界観は強烈ですから。

暴力、ドラッグ、レイプ、いじめ、アルコール依存、新興宗教。
90年代の病理をこれでもかというくらい家庭内にぶち込み、父母姉妹それぞれの逃避と迷走を描いた本作は、今話題の邦画『冷たい熱帯魚』(園子温監督)の世界にも通じるものがあります。

共通点は、家庭から離れていく女たちを繋ぎとめようと奮闘する男の物語だということ。そしてエロくて卑猥で不健全で暴力的なのに名作、という二点でしょうか。

何よりも恐ろしいのは、こんなにも過激で退廃的なのにこれが“ホームドラマ”だという事実。90年代の不健全名作マンガ史に燦然と輝く、悪夢のような傑作ホームドラマです。

不良相手に家庭論を熱く語るお父さん

警察に助けを求めようとする次女を止める父。男の空回り喜劇の始まりです…

ドライな次女がついに父に刃物を向ける。崩壊一直線の家庭はこれからどこへ行く? (C)山本直樹/小学館