究極の切なさに号泣できる恋愛ファンタジー

小説・エッセイ

更新日:2011/11/24

いま、会いにゆきます

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 小学館
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:市川拓司 価格:616円

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まぎれもなく、村上春樹タッチの文章です。レトリックの使い方もそのものですね。ですからたいへんに読みやすい小説です。サラサラッと読めてしまいました。

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ただし、文章というのはどこかへ到達するための乗り物みたいなものですから、同じ乗り物に乗ったからって同じところへ行けるわけじゃありません。深さがちょっと足りない感じはあります、村上春樹に比べて。だけどそのぶん軽い。ファンタジーとしてはこの軽さが存分に生かされているのであります。

小学6年の祐司を育てる語り手の拓司は、妻澪を亡くしてから一年を過ごしていた。去年のちょうど梅雨が終わりを告げて夏に入りかけたころ、彼女は病死した。そのとき、一年たったらまた会いに来ますと言い残した彼女の言葉が拓司の耳にはまだ残っていた。そんなある雨の日、祐司と出かけた散歩のコースで、彼は澪そっくりの女性に出会う。いや間違いなく彼女は澪だ。記憶をすっかりなくしている澪との恋がもう一度始まるが、その喜びにはあまりにも切ない結末が待っていた。

大大ベストセラーの上、映画にもなりましたから、何らかの世間の評価はご存じの方も多かろうと思います。そこで僕の読んだ非常に個人的な感想を述べさせていただきますと、読み過ごしちゃうけどこの拓司って語り手の方は、たいへんな人生を生きておられるのですよ。というか、ふつう考えたら生きておられるのかどうかも分からないわけです。いや、奥様亡くされてお子さん育てなきゃなんない苦労ってことじゃなく。

拓司さんまず、記憶力がけた外れにお悪い。さっき言われたこともう忘れるからメモいっぱい作ってる。映画の「メメント」みたいなことになってます。それから心気症。とにかくいろんなことがものすごく心配になっちゃう、病的に。地震が来ないかな、みたいなことで死ぬほど不安に襲われたりするのです。次に強迫神経症。映画館とか図書館とか、静かなところにいるとどうしてもなんか喋らずにいられなくなるって書いてあります。ほいで閉所恐怖症。エレベーターとか乗れない。でもってパニック障害。電車やバス乗れません。どころかたとえばディズニーランドのアトラクションね、ああいうのいっさい乗れない。病院に通って薬も飲んでいるらしいですけど、なぜかすぐ耐性があがっちゃって効かなくなり、別の薬に変えたというのに疲れていまは飲んでないとかいってます。

パニック障害だけ僕もやってましたけど、これね自分がつらいだけじゃないのね。妻と旅行に行ったり、遊園地でジェットコースターに乗ったり、全然してあげられない。拓司さん、これだけの症状抱えて、澪さんよく我慢してたなあ。偉いなあ、ひとしきりそう感心せずに読めませんでした、ハイ。