天才アラーキーは猫を撮っても生々しくセンチメンタル。愛猫チロの写真集

2011/4/1

チロとアラーキーと二人のおんな 荒木経惟写真全集 10

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 :
ジャンル:写真集・カレンダー 購入元:eBookJapan
著者名:荒木経惟 価格:864円

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「天才・アラーキー」こと荒木経惟の写真全集全20巻が、iPhoneで観られる! これは衝撃的だった。さっそく、その中の一巻「チロとアラーキーと二人のおんな」をダウンロードした。
  
荒木経惟は、生後4ヵ月の時に妻の陽子さんが連れてきたチロにすっかり魅了され、陽子さんが亡くなった後もシャッターを押し続ける。なんのてらいもなく、チロにメロメロの自分をさらけだし、チロを「A(荒木のこと)の愛人生」と言ってはばからない。

お風呂でシャンプーされるチロ、アラーキーのお腹の上で昼寝するチロ、酔っぱらって帰宅したアラーキーに逆さ宙づりされるチロ、スズメをくわえて得意げなチロ…。どれも猫を飼っている人にはお馴染みのシーンだが、荒木経惟はそこに漂う生活の猥雑感も写し取ってしまうところが、やっぱり天才。部屋の匂いや人の息遣い、空気の温度や湿度までがモノクロ写真からたちのぼり、チロを通してありきたりな日常のヒトコマが存在感をもって力強く迫ってくる。
  
私が好きなのは、陽子さん亡き後、荒木家のバルコニーで写されたチロの写真だ。緑のツタに覆われ、寂びたテーブルや壊れたテレビなどが無造作に置かれた、やや荒廃した風情の中に一匹、生を感じさせるチロの姿が生々しい。最愛の妻を亡くした後、チロを精神の支えに暮らす荒木経惟の心象風景ともいえる写真だと思う。写真にはところどころ、アラーキー独得の字体と文体で日記文が添えられていて、こちらも写真と同様たわいがないのに、なぜすっと心に染みるのか。猫を撮っても、アラーキーの写真はヌードと同じく、人の心を素っ裸にしてしまうような、どこか明るい隠微とでも言いたい雰囲気が漂っていて、いいなと思う。
  
何度でも気が向いたときにめくりかえしたい写真集が、いつでもiPhoneをタップすれば観られるなんて、とてもシアワセな気分だ。地震や原発事故のニュースで自分でも思いがけないほど凹んでいた私の肩を、無言でポンと叩いてくれた一冊だった。

巻末のコメントで、「妻が逝って6年、うちのバルコニーもふつうなら廃墟になっちゃうはずなのに、チロがウロチロしているお陰で、楽園のような感じがするね…」とアラーキーは語っている

生前の陽子さんがバルコニーでラジオ体操をしているところ。「でも、体硬くてねえ。そういう彼女がよく出ているなあ」とアラーキー

原稿を書いていても必ず乗ってくる膝にチロ。陽子さんが撮ったものか? この作品は紙の本では 見開き写真なのだが、iPhoneだと片面ずつしか観られないのがザンネン!なんとかならないのだろうか

上の見開き写真の右側。iPhoneでは、このように物切れ状態になる。縮小して一画面で見開き写真が見られるようになるといいなと思う (C)Nobuyoshi Araki