あなたにはありますか? 愛しさよりも、もっと強い気持ちで”蹴りたい背中”

小説・エッセイ

更新日:2012/3/2

蹴りたい背中

ハード : iPhone/iPad 発売元 : Kawade Shobo Shinsha Ltd. Publishers
ジャンル: 購入元:AppStore
著者名: 価格:350円

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レビューであれ、個人の日記ブログであれ、なんらかのまとまった文章を書く場合、筆者は、文章の始め方には特に気を使うものですよね。ましてや小説ともなれば、そこから読者をすうっと物語の世界に誘っていくことができるかどうか、作品の書き出しは、作家にとって、その力量が最も問われる部分ではないでしょうか。

この小説はこんな風に始まります。

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「さびしさは鳴る。耳が痛くなるほど高く澄んだ鈴の音で鳴り響いて、胸を締めつけるから、せめて周りには聞こえないように、私はプリントを指で千切る。細長く、細長く。紙を裂く耳障りな音は、孤独の音を消してくれる。気怠げに見せてくれたりもするしね。葉緑体? オオカナダモ? ハッ。っていうこのスタンス。」

ちょっと長い引用になりましたが、どうです? この先を読んでみたくなるでしょう?

本書は、17歳で作家デビューした綿矢りささんの芥川賞受賞作。高校一年生で陸上部所属、周囲から浮いている、と自他ともに感じているハツこと長谷川初実と、アイドルおたくで同級生の男子、にな川。友情とも恋愛ともいじめともつかぬ、なんとも説明しがたい関係の二人を中心にストーリーはすすんでいきます。

自分でもどうしていいかわからないような、自分をもてあますような、わけもなく自分あるいは誰かを蹴ったりたたいたりしたいような、もどかしいような、感覚。言葉にするのが難しい(と私には思われる)思春期のそれを、言葉を使って描いた物語、といったら、なんだかわかりにくいでしょうか。

一気に読めてしまうけれど、作家が安易な結末を用意していないために、すっきりしない、という読後感を持つ人も多いらしい本書。私には、せつないように見えて、実はとても幸福な恋愛の話のようにも思えました。終盤、ベランダでの二人のやりとりの様子は、お互いの気持ちを確かめたい、恋する者同士の、じれったくも美しい、そして二度と戻ることのない、かけがえのないひとときのように思えて…。さて、読者の皆さんは、どんな読後感を抱くでしょうか。

一気に作品世界に連れ去られるような書き出し

普段は推奨設定そのままで読むことが多いが、色々設定を変えて試してみて、今回はページ移動エフェクトを「カールアニメーション」にしてみた。なんとなく、この作品の雰囲気に会っている気がして