おどろおどろしいタイトルそのままの迷宮的な「語りの密林」が襲いかかる

イースト・プレス

2011/11/22

ドグラ・マグラ -まんがで読破-

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : イースト・プレス
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:夢野久作企画・漫画 価格:400円

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中井英夫「虚無への供物」、小栗虫太郎「黒死館殺人事件」と並んでこの「ドグラマグラ」は、日本ミステリー界の三大奇書といわれています。別のいい方をすれば、日本三大アンチミステリーです。ミステリーという物語の骨格そのものをゆがめてしまった、実に奇怪な読み物なのであります。

3冊とも恐ろしく分厚い作品なので、とりあえずこの漫画版で様子を探ってから本編に取りかかるのも一つの手でしょう。最後の種明かしが最大の命である普通のミステリーとは違うアンチミステリーだからこそ、そんな読み方も成立するのです。ただし、「虚無への供物」だけはまだ漫画になっていないので、今後を強く望みたいと思います。

さて「ドグラマグラ」なんていかにもおどろおどろしいタイトルですが、読み始めたとたん、

 「胎児よ
 胎児よ
 なぜ踊る
 母親の心がわかって
 恐ろしいのか…?」

なんて怪しい詩のごときものが目に飛び込んできて雰囲気は一気に盛り上がります。いま主人公の青年は、どこやら薄汚れた小さな部屋で目を醒ましたところです。すると彼は自分が誰でここがどこかがまったくわからなくなっているのを発見するのです。おまけにどこからか「お義兄さま…、お義兄…、どこにいらっしゃるんです」という呻くような女性の声がもれてくるではありませんか。なんでしょうこの不気味な状況は。

と、そこへ、紳士然とした男が現れ、君はある未解決の恐ろしい事件に巻き込まれて記憶を失い、この精神病棟へ入院しているのだ、私が担当の医師だ、というのですね。

お話は以下、青年の自分探しと恐ろしい事件の全貌を思い出し解決を図ることとその2つがもつれあいながら、まさしく語りの迷宮のなかをくぐり抜けていくことになるのです。

いや、でその「語りの迷宮」なんですわ問題は。「ドグラマグラ」のストーリーはこの漫画版でとても明快に飲み込めるのです。そこにはミステリーらしい趣向もちゃんと盛り込んでありますから、楽しめないわけじゃないのです。だけど原作の、なんか粘つくような文体の悪夢にたたられながら、「脳髄はものを考える場所にあらず」といったような不思議なフレーズが放つ魅力に溺れ、どこを歩かされてるんだか物語のただ中で迷子になってしまうような幻想的な読書に出会うことはできないのですね。

とりあえずなんだか評判はよく聞く「ドグラマグラ」ってどんな話か、手っ取り早く知りたければまず本書を読みましょう。それでこの世界が体に合いそうだったら満を持して本編に挑戦する、ぜひその気概をお忘れなく。


巻頭からいきなり飛び込んでくる怪しいフレーズに胸もさわぐ

主人公には自分が誰か、ここがどこかも分からなくなっている

記憶の回復と、迷宮入り事件の真相を探る旅が始まるのだ

なんと、狂人が書いたという小説「ドグラマグラ」が「ドグラマグラ」の中には登場する

怪しげな学説もオンパレード

脳髄はものを考えるところにあらず、そんな魅力的な言説も読者をますます惑わす (C)バラエティ・アートワークス/イースト・プレス