おぞましさの美を描いた芥川の代表的傑作をコミック化

公開日:2011/11/22

マンガで読む名作 地獄変・河童 1巻

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 日本文芸社
ジャンル:コミック 購入元:BookLive!
著者名:芥川龍之介 価格:432円

※最新の価格はストアでご確認ください。

芥川龍之介というのは芥川賞のゆかりになっているからパリパリに糊のきいたような純文学作家みたいな気がするけれど、どうしてたいへんな物語作家だ。直木賞をあげたいくらい。

advertisement

ばかでかい鼻を縮めるためにさSMショーさながらのさんざんな目にあわされる男の話「鼻」。有象無象がたかってきちゃ地獄から天国へのぼる蜘蛛の糸が切れると至極まっとうなことをいったらお釈迦様に見放されちゃった、京極夏彦ばりに後味の悪い話「蜘蛛の糸」。現実なんてない、解釈だけが存在するってニーチェそこのけの哲学的真実を、なんと霊媒の口から話させるアクロバット・エンタメ「藪の中」。楽しさを数えてたら切りがない。

でもって本書は漫画になった芥川。お題はお得意の王朝ものの傑作「地獄変」だ。

平安朝京都の堀川の大殿の元には、容貌醜怪ながらも人の魂を抜き取るとまで噂されるほどの腕を持った絵師・良秀が出入りを許されていた。吝嗇、怠惰、傲慢の良秀ではあったが、大殿の住まう御所に仕えさせている娘だけには、ことのほかの愛情を惜しまないのであった。さてあるとき、堀川の大殿は、良秀に地獄絵図を描いた屏風をお命じになった。心血を注いで絵作りに打ち込む良秀だったが、八割方描けたところでどうしても描けなくなった。絵の中心に、燃えさかる御所車の中で炎熱に悶え苦しむ美しい女を据えたいのだが、実際にこの目で見なければ本物は描けない。ぜひ見せてください、と恐ろしいことを大殿に頼むのであった。

ここから身の毛もよだつようなおぞましい事件へと発展するこの小説は、世の中の人が思いもしないすさまじいばかりの「美」の発見が書かれているとも、また、芥川独特の常識を越えた芸術至上主義への宣言が聞かれるとも、さまざまに解釈がとれる。とれるところが面白い。

もう一つ面白いのは、ここで芥川がロシア文学、特にドストエフスキーが多用した物語テクニックを使っていること。お話のはしばしにほのめかしめいたことを綴って、だけど実際にはそのほのめかしと真逆のことが起こってるのを読者に分からせるのね。「まさかあの方だけはそのような悪事を働かれることはございますまい」って書いてあると、そいつ極悪人に間違いないわけ。これ考えながら読むと魅力はグッと増す。