新鮮な官能が倦怠した文化を刷新する「想像力のテロリスト」

小説・エッセイ

2011/11/23

檸檬・冬の日 他九篇

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 岩波書店
ジャンル: 購入元:eBookJapan
著者名:梶井基次郎 価格:648円

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「桜の木下には死体が埋まっている」といったのは、坂口安吾だとよく間違われるけれど、梶井基次郎ですね。安吾は「桜の森の満開の下」で、満開の桜はご陽気なようにみんな勘違いしているけれど、満開の桜の花の下から人間を取り去ってみると、気の違うような恐ろしい風景になります、といってるんですね。

で、梶井基次郎。胸の加減が悪くて夭折され、体力もあまりなかったので短編が多い方です。ただしその短編というのが、「桜の下の死体」発言でも分かるとおり、異様に細くとがった、見方によればやや病んだ、繊細で敏感な神経で書き付けたようなあやうい小説ばかりなのであります。

これをもうちょっというと、なにが書いてあるのか、分かる人にしか分からない小説。ナイーブな精神性みたいなものを共有しなければ、真核を見失うごとき小説、なのではないでしょうか。ちょっと憧れる。

代表作が本書に収められています。全11編。

さながら代名詞ともいえる「檸檬」(れもん と読みます)は、なにか不吉な塊が胸のところにわだかまっていたたまれなくなった「私」は、京都の町をさまよい、田舎くさい八百屋で檸檬を一個あがなうと、大きな書店に入り美術書を物色するが気詰まりは消えず、ふと思いついてそれらの書物を積み上げた上に檸檬を1つ載せ、書棚の上に黄金色に輝く爆弾を仕掛けてきた悪漢が私で、10分後にあの書店が美術書の棚を中心に大爆発するのならどんなに面白いだろう、と空想してほほえみながらそのまま書店を出る。そういう7ページばかりの作品です。

ミステリーではないので、あらかた書いてしまいましたが、この小説はちょいとした奇想だけでできあがっているのではなく、語り手の内面を執拗に語りかけてくる手腕が見事なのです。街をさまよいはじめた語り手は、まず、私はこの頃がらくたが干してあったり家並みが傾いていたりするみすぼらしくて美しいものに強く引きつけられると、おっそろしく21世紀的な感想を述べ、花火が好き、檸檬の色と香りが好き、そしてひなびた八百屋の風情が好き、と退行的な嗜好を並べ、行き着いた大書店の近代性や本来は好きな美術を本という理性のスタイルにまとめたものがどうしても我慢できないのだと進んでいくわけです。作者の導きにいざなわれて「想像力のテロリスト」を目指してみませんか。

「檸檬」の書き出しはひどく印象的だ

病におかされた身体が見る世界の風景、それがこの作家の終生のテーマだ「冬の日」

冬に生き残った弱々しい蠅の「生きようとする力」がまるで自分の立っている場所ででもあるかのような「冬の蠅」 (C)岩波書店