ニヒルで熱い探偵ヒーローが活躍する推理マンガ

更新日:2011/11/28

鉄面クロス

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 石森章太郎プロ
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:石ノ森章太郎 価格:324円

※最新の価格はストアでご確認ください。

大マンガ家・石ノ森章太郎というと、『サイボーグ009』『仮面ライダー』など、サイボーグ・人造人間モノでよく知られていると思いますが、SFから時代劇、学習モノまで多彩な分野で名作を残しており、「マンガの王様」などと呼ばれています。

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その氏が描く本作は、主人公の風貌から、一見「サイボーグモノか? 人造人間モノか?」と、そちら方面のファンを期待させてしまいそうですが、残念というべきなのでしょうか、サイボーグモノでも人造人間モノでもありません。鉄の仮面の下は、普通の人間です。ただし、スペックはやや特殊で、元・刑事の私立探偵。頭が切れ、身のこなしが軽い。そして、ニヒルっぽいけれど、心に熱いものを持っている。ダークヒーローに見える正義の味方、といったところでしょうか。

周囲から将来を期待されていた刑事の主人公は、ある事件に巻き込まれ、二度と取り外せない冷たい鉄面をかぶせられます。失意に打ちひしがれますが、強靭な精神力で立ち直り、ひっそりと私立探偵を始めます。普段は酒びたりでだらしのない生活を演じることで、周囲の目を欺き、事件を解決に導く。

「優れた能力を持っている者は、他人にそれをひけらかしたりはしない」という意味の「能ある鷹は爪を隠す」ということわざがピッタリです。
目的のために、世を忍ぶ。機会を待って雌伏する。

教育雑誌等の取材の中で、難関進学校を受験する子どもたちに話を聞くことがありますが、一見、普通の子であることがほとんどです。「ぼく(わたし)、勉強が得意なんだ!」といった空気を漂わせている子どもはほとんどいません。それは、必ずしも、志望校合格のために「世を忍ぶ」「機会を待って雌伏する」という姿勢を意識してのことではないと思います。勉強はできる方だ、という自負心は持っているでしょう。子ども特有の「優れた能力を他人にひけらかしたい」という気持ちがない、ということでもないと思います。

私の実感としては、これらの子どもたちは、ただ「優れた能力だろうけれども、他人にひけらかすほどではない」ということなのだと思います。勉強を得意をすることが、その子が置かれた環境の中では、それほど特別なことではない、という認識。鼻を高くせず、勉強を習慣のように淡々とこなしていける(これこそがスゴイ能力なのですが)。そして、結果を出す。結果的には、やはり「能ある鷹は爪を隠す」…いや、「能ある鷹の爪は隠れている」ということなのでしょうか。

オトナになるほど、大きなことをして、人に知ってもらい褒められたい、注目されたいと欲が出るものですが、そんなときに本作を読んで、自戒としたい。凡才なりに、せめて爪を隠す努力はしたい。そう思わされました。


目次。サイボーグや人造人間モノの物語ではありません

“若いくせに”飲兵衛の主人公。普段は下足(げそ)をくわえているキャック

主人公のもう一つの顔。元・刑事の私立探偵。作中は、泥臭いヒューマンドラマが繰り広げられる。アクションパートも見どころ (C)石森章太郎プロ