【ダ・ヴィンチ2016年1月号】今月のプラチナ本は 『鍵の掛かった男』

今月のプラチナ本

2015/12/4

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『鍵の掛かった男』有栖川有栖

●あらすじ●

大阪・中之島の小さなホテル“銀星ホテル”で一人の男・梨田稔(69)が死んだ。警察は自殺による縊死と断定。これに納得できない女流作家・景浦浪子は、ミステリー作家の有栖川有栖と、その友人の犯罪社会学者・火村英生に、真相の解明を依頼。しかし梨田は身寄りがないうえ、来歴に関する手がかりがほとんどなく、調査は難航。その人生は「鍵の掛かった」としか言いようがなかった。多くの関係者が自殺説に傾くなか、アリスと火村が苦労の末に辿り着いた真相とは? 大人気「火村英生シリーズ」、13年ぶりの書き下ろし新作。

ありすがわ・ありす●1959年、大阪府生まれ。89年に『月光ゲーム』で作家デビュー。2003年、『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、08年に『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞を受賞。『怪しい店』『菩提樹荘の殺人』『幻坂』『江神二郎の洞察』『論理爆弾』『真夜中の探偵』など、著作多数。

有栖川有栖
幻冬舎 1700円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

一瞬一瞬が、人生の分岐点。その行き着く先は?

この本を読むと、風景が変わる。毎日の通勤電車で乗り合わせる「初老の男」たち、その全員に人生と運命があることが見えてくるからだ。平凡なサラリーマンとしか形容できない見た目の人物にも、仕事のトラブルと成功があり、愛した女がいて、死別した人もいるだろう。いまだに後悔している言動も一つや二つではあるまい。普段われわれは、そんな無数のドラマを垣間見ることもなく電車を乗り降りしているが、この本はひとりの「初老の男」がたどった運命を、ひとつひとつ鍵をひらくように見せてくれる。そして読後に思うのは、“紙一重”ということ。あのひと言を言わなければ、一本ちがう電車に乗っていたら……本当に些細なことで、人生は分岐してしまう。毎日のなにげないやり取りが大きな意味を帯びてきて、折々にこの本を思い出すだろう。

関口靖彦 本誌編集長。今月は毎年恒例の「BOOK OF THE YEAR」に加えて、「次にくるマンガ大賞」WEBコミック部門の発表もあります。後者は12月18日ニコニコ生放送にて。是非、ご注目ください。

 

感慨と感嘆──贅沢な大人のミステリー

あとがきも含めて540ページという大ボリューム。ホテルで亡くなった男の死の真相と彼の人生の謎に迫る有栖の奮闘ぶりを堪能した。老舗ホテルの雰囲気と大阪・中之島の街の風情も楽しみつつで一気読みだったにもかかわらず、すごく贅沢な読書をさせてもらった気分。自殺か他殺かというところからスタートした有栖の調査は、踏み込んでいくと、またそこに新たな謎が出現し、その興味は尽きない。彼の目線は非常に読者に近いので、手がかりをともに探っているような親近感があった。そして、本格ならではの緻密な伏線と謎解き。その鮮やかさに胸を打たれる。ほろ苦さと切なさと希望、映画を観たような立体的な感慨が訪れるのは自分も歳を重ねてきたからか。著者が大人のミステリーを目指したというのが納得できる作品である。

稲子美砂 特集以来、半年ぶりの又吉さん。240万部という部数が積み上がっていくなかでいろいろあったのだなあと感慨深いインタビューとなりました。“作家・又吉直樹”への期待が膨らむ内容です。

 

人の人生はどこでどう転がるかわからない

人の人生はふいに決まる。〝鍵の掛かった男〟梨田稔のなんとも壮絶な半生を追いながら、その不条理さを思わずにはいられなかった。「それを乗り越えていくしかない人生もあれば、石ころに蹴躓いただけで崖から転落してしまう人生もある。人の世は、なんと危うく残酷で、なんと出鱈目で得体が知れないのでしょうか!」という作家の影浦浪子の言葉に同感するとともに「だから、私たちは小説を読み、書くのですよ」という言葉が深く染みた。人を知り、理解したいと思うから小説を読みたいと思うし、どんな人も簡単にはわりきれない謎を抱えて生きている。そう感じさせられる物語だった。個人的には、読後、梨田以上に、女の感情の割り切れなさと熱情の怖さに思いを馳せてしまうとともに、嫉妬はこうも人を狂わすのだなとぞっとした……。

服部美穂 1売の落語特集のために、ほぼ毎日落語を聴きながら移動しています。笑い声も笑い顔もがんばっても堪えきれずにいるので、かなり怪しい人に思われていると思います。落語、面白いです!

 

ホテルという舞台は魅力的!

人気シリーズ13年ぶりの書き下ろし。火村英生と有栖川有栖の活躍が楽しいシリーズだが、今回は、主役の二人より謎の死を遂げた梨田稔の人生に物語のスポットが強くあてられている。ホテルのスイートに住み続ける梨田の秘密が少しずつ明らかになるにつれ、穏やかにみえた男の意外な素顔に惹きつけられていく。そして舞台となる“銀星ホテル”。年老いた男が小さくて素敵なホテルのスイートに住むなんて、その設定だけで心躍るではないですか! ああ、楽しかった。

鎌野静華 整体に通っている。あまりに運動をしないため体が錆びつきすぎて先生にあきれられる。アキレスけんを伸ばすだけで相当痛いわが身に反省しかない。

 

よくできた男ともだち

舞台は大阪にあるレトロな佇まいの小さなホテル。火村とアリスの名コンビが今回挑むのは鍵のかかった密室と、4年間もホテルに滞在していたという男の謎だ。序盤はなんと、アリスが単独捜査に挑む。普段のシリーズとは異なるハードボイルドな展開だ。その分、後半に火村が登場してからのスピーディな展開は圧巻。それにしても、二人の関係性は魅力的だなぁ。彼らが集い、推理という作品を丹念に磨き上げていく過程はいつまでたっても色あせない。ドラマも楽しみです!

川戸崇央 本誌でよくお仕事をお願いしていたカメラマンさんが今月から北海道へ移住することになって、寂しい限り。北海道で撮影のある方、紹介しますよ!笑

 

大阪・中之島界隈が舞台です!

ファン待望の火村英生シリーズ。今作では、有栖川が大活躍。ホームズとワトソンのような二人の掛け合い&謎解きは、重厚なミステリー作ではあるが、軽快でワクワクする。何より私的にも注目してほしいのが、中之島界隈が同作の舞台であること。4P目に地図も掲載されているが、土地勘がある読み手にはたまらない作品。あの辺りは都会的なのに開放感があって、少し寂しさが漂っているように思う(関西出身者です)。死を迎えた男の結末とこの舞台が、ぴったりハマっていた。

村井有紀子 中学生まで習っていたピアノをまた始め、妹がピアノ科音大卒なので、実家に戻る度に楽譜をせびっています。ソナチネで指の回らなさ実感中……。

 

あの名コンビが「人間の謎」に迫る

梨田稔という人物そのものについての謎解きに主軸が置かれた、大作長編ミステリー。梨田は本当に自殺なのか、それとも他殺なのか? 彼に絡む人間関係がほどかれていくたび、事象的トリック解明とはまた違った謎解きの面白さを感じて、ページをめくる指が先へ先へと急く。この世の中で一番の謎は、人間そのものかもしれない、なんてことを思いつつ。前半は有栖川が単独捜査を行い、中盤から真打・火村の登場。ふたりが交わす軽妙な会話は、相変わらずの心地好さである。

地子給奈穂 「ズッコケ三人組」の記事を担当して思ったこと。大人になって児童文学から遠ざかっていたけれど、名作の面白さって、ぜんぜん色褪せない。

 

人間が人間にもたらす〝愉悦〟

結局、この世で最も人の心を揺さぶり、そして何より面白いものというのは、〝人間〟なのだ。そのことを、まざまざと見せつけられた。経済的にも豊かで、人望も厚かった男、梨田稔の死の真相を、おなじみの火村とアリスのコンビが追うミステリー。死というものに詰まった、一人の男の人生そのものが少しずつ解き明かされていく様は、いやらしい言い方だが、なんとも言えない愉悦を読者にもたらしてくれる。年の瀬にゆっくりと本書を読めたなら、こんな贅沢はないだろう。

鈴木塁斗 BOTY特集を担当しました。本当にたくさんの方にご協力いただき、70Pに迫る大ボリュームに。年末年始のお供に、楽しんでいただけたら嬉しいです!

 

年の瀬にピッタリの大人のミステリー

不可解な死を遂げた資産家、梨田。死の真相を探るために解き明かされる、彼の謎に包まれた人生そのものが「鍵の掛かった」すなわち〝密室〟として機能している。有栖は文字通り、手と足を使って彼の人生の痕跡を追い求める。そこにどんでん返しはない。パズルが組み立てられるように、少しずつ梨田の秘密が明かされていくさまに、ひとりの人生こそがミステリーなのだ、という新本格の旗手である作者ならではの真摯さを感じた。じっくりと味わいたい大人のミステリーだ。

高岡遼 小学生の頃に読んだ『西の魔女が死んだ』は、活字が心を揺さぶることを初めて教えてくれた一冊でした。本書はそれを再確認させてくれました。

 

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