あきれかえるようなヘンテコ忍法炸裂の奇想時代小説

小説・エッセイ

更新日:2011/11/30

くノ一忍法帖 山田風太郎忍法帖 (5)

ハード : PC/iPhone/iPad/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:山田風太郎 価格:540円

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山田風太郎の忍法帖は凄いらしい、なんか劇団四季が「くノ一忍法帖」やりそうな物言いですが、凄いのはほんとうだから仕方がない。

奇想小説という言い方はよくあって、藤枝静男とかネルヴァルとか澁澤竜彦とか上がったりするけれど、そういう「孤高の人」じゃなく、スポーツ新聞にも名前の載りそうな作家なので心強いのだ、山田風太郎は。

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とにかく、これ以上ないエンタテインメントにして、なおかつ究極の奇想に溺れさせてくれる忍法帖の中でも、「くノ一忍法帖」は大傑作の一篇。

ときは大阪城落城寸前。家康は愛娘・千姫を城の中から救出し駿府に迎える。ところがそれ以前に、真田幸村の命を受け5人の女忍者が信濃忍法を駆使し秀頼の子を身ごもることに成功していた。それを知った家康は、配下の服部半蔵に相談し、伊賀鍔隠れの里から5人の忍者を呼び寄せる。ここにもう一つの天下分け目の決戦が血みどろになって展開することになる。

とにかく、忍者たちの使う忍法というのが、奇想天外、驚天動地、馬鹿にされてるのかと感じるギリギリの地点で娯楽読み物として成立する妙味。ひとりがひとりを討てば、討ったひとりが次の敵手に討たれ、そのひとりもまた次のひとりに討たれていく。まるで死のリーグ戦のごとき奇蹟が、次々に繰り出される命がけの忍法の炸裂に彩られていくのだ。

もう一言付け加えるなら、ただ奇想でありエロティシスムが漂いバトルシーンがダイナミックだからこの小説が傑作なのではない。山田風太郎には史観があるのだ。歴史に対する思想がある。支配階級の代理戦争を下部の忍者たちが負って殺し合わねばならない図柄は、一コマずらせばかつての日本の戦争の姿そのものに重なる。無念のまま果てていく女忍者たちへの哀れみと絶望を、丁寧に読むときこの作品から感じられるはずだ。

千姫を守るくノ一のうちに秀頼の子を身ごもったものがいる!

蛇まといの法—吸壷の術なる秘法で秀頼の種を授かったらしい。が、それはどのような呪法なのか

千姫の護衛についていた剛のものも錯乱して自死したという (C)山田風太郎/講談社