精進料理がおいしそう…と思うならあなたももうオトナ!

公開日:2011/12/6

宗哲和尚のファッショナブル精進料理 -手早くおいしく108種-

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 農文協
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:eBookJapan
著者名:藤井宗哲 価格:525円

※最新の価格はストアでご確認ください。

忘れもしない、京都への修学旅行の一日。お寺で精進料理を頂く機会があった。中学生の時分。肉食の最盛期の頃だ。出てきた一汁三菜以上あったお膳に、「こんなに沢山品数があっても、いまいちピンとこないわね」などと生意気なことを言っていたのだと思う。

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隣では国語教師の石バアが、麦ご飯にお茶をかけて、おいしそうにかきこんでいた。濃い番茶のフィルターかかったぼそぼそとした麦飯は、当時の私には「貧しい」としか表現しようがない食べ物だった。

あれから30年弱。普段は我が家の「肉食動物」のためにこってりしたものを用意しているが、たまに一人の食事になると、野菜だけで3品ぐらい作り、白いご飯で頂いている。人間の体はその時々に食べなくてはいけないものを自然に知らせてくれるのだと思う。このところ、野菜を使ったレシピや、「滋味」をいかに生かすか、そんなことばかり気にしながら台所に立っているが、この半年ほど、好んで読んでいるのが「農文協(農山漁村文化協会)のレシピ本だ。

このシリーズは明らかに他の出版社とは一線を画している。編集や構成、写真も実は「イケテ」ない。料理写真がこれじゃぁなぁ、あぁ、レシピをこんな風に書いても、全然わからないじゃない? 材料ぐらいはきちんと項目立てして欲しい。そんな感想をまず、持つかもしれない。はっきりいって、料理初心者には絶対薦められない本だろう…と書いてみて、ふと気がついた。違う、実はこういう本が最初に教えを請う「料理本」でもいいのかも、と。

宗哲和尚は精進料理教室「禅味会」を主宰する人物。独特な語り口をそのままに生かした文章は、レシピ本というジャンルには入りきらない。「食を通じて生を教える」というのがこの本の目指すところだろう。お坊さんの説教臭さはまるでなく、「遊び」の気持ちで料理をしているという和尚が手際よく一汁一菜、一汁三菜を30分で作る「台所作業の流れ」まで説明してくれる。禅宗の厨房に入ったような、そんな気持ちになってくる。そしてその台所には肉もなく、卵もなく、こびりついた油汚れなど無縁の世界なのだ。あぁ素敵。

著者は言う。「修行僧の食事は質素を通りこして、枯淡である。日々の献立を紹介してみよう。朝食は麦粥にたくわん、梅干し。昼食は麦飯にみそ汁(自給自足をモットーにしているので、自分たちの手で作った野菜が汁の実である)、たくわん。それに、添菜といってときには野菜の煮びたし、炒め物、精進揚げぐらいはつくこともあるが、基本的には一汁一菜である。夕食は朝の残り粥、昼のご飯の残りにみそ汁を混ぜたおじやにたくわん。これが彼らの365日の献立である」。

著者はこのあと、20代から40代の働き盛りの時代をこの食事で通す修行僧たちがなぜ風邪をひかないのか。何故ガンにならないのか、と問う。そしてシンプルに肉食動物と草食動物の違いを挙げて、肉食動物はスタートのダッシュは聞くが、草食動物は持久力がある、と答えている。

料理に興味がある人、これからイタリアへ、フランスへ、料理修行をしてみたいと思っている若者。敢えてそういう方々に推したい本。もちろん、日々の食卓を司る主婦には、経済的かつ発想を刺激してくれる貴重な1冊です。


レシピは質素なものが多いが、おせち料理はこんなに華やか

この写真を見て、スペインの2つ星レストラン「ムガリッツ」を思い出した。同じだ…

「乾物」、私の台所ではスター的存在。スペインじゃ高いんですもの

ハウツーレシピ本ではないので、説明もこんなにざっくり

宗哲和尚のメッセージはこの言葉に凝縮 (C)藤井宗哲/農文協