後ろめたさやひけめを晴れがましく感じながら前向きに生きる、ユニークな感性が横溢

小説・エッセイ

公開日:2011/12/8

傷つくことだけ上手になって

ハード : PC 発売元 : KADOKAWA
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:電子文庫パブリ
著者名:つかこうへい 価格:432円

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志ん生を知らなけりゃあ落語を聞いたことにならねえとかいって威張るいけ好かないオヤジになったみたいな気がしてメゲるが、80年代前半に解散した「つかこうへい事務所」時代のつか芝居を見てなきゃ、本物のつかこうへいを見たことにゃならないんである。いや、往年はそれぐらい凄かったってこと。

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そんなこといったって、生まれた時期がズレてたんだからしかたないって反論も当然だ。過去へタイムトラベルするわけにもいかないしね。そこでせめて当時のつかが残した言葉だけでも味わってみてほしい、とそう思うわけなのである。70年代に書かれたつかこうへいのエッセイ集である。

まず言語センスの鋭さがこたえられない。「傷つくことだけ上手になって」、ってタイトルを見ただけで分かるんじゃないだろうか。この言葉の組み合わせはそうそう簡単に出てきやしないものだ。本書の全編で展開される、エッここでその単語が出てくるの? エッここでその言い回し? と驚かされるフレーズはたまらない快感だ。

もちろん言葉遣いの表面上の問題だけではない。独特の表現によってあぶり出される「生き方のスタイル」みたいなものも、小気味よく屈折してナイーブなのだ。

たとえば巻頭言がわりに置かれた「この怨み、この屈辱忘れまじ」という文章で、つかはいきなり「去年、借金までした払った税金が、今年は八万円ばっかり返ってきた」と憤っているのである。好きな芝居を思いっきりやってくださいと税金を返してくれたならうれしいけど、「とるにたらないと思われたことがくやしい」というのだ。あまりくやしいので税理士を首にしたりするありさま。つまりつかの論理は、芝居なんて恥ずかしいことをやってる後ろめたさをきちんと生きる、ということなのだと思う。

この手の論理で日常の出来事と社会で日々起きたことを綴っていくこのエッセイ集が、逆接と斬新なレトリックにおおわれて、面白くないはずがない、とわたしは思うのだが。とりあえずちょっと立ち読みされよ。

出だしの一文からまっとうにして過激

少しええかっこしいのところも変わらぬ可愛さ

逆説と可笑しさの同居がなかなかの味わいを出すのです