ハウツー本に終わらない、師匠に指導してもらっているようなあたたかい感覚に感動

公開日:2011/12/12

石ノ森章太郎のマンガ家入門 (1)

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 石森章太郎プロ
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:石ノ森章太郎 価格:324円

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マンガの大家、石ノ森章太郎。今のマンガの地位があるのも、氏の影響によるところが大きいでしょう。そんな氏が、マンガ家を目指す少年少女のために、マンガの描き方をやさしく教えてくれるバイブルともいえる入門書が本書です。

この本の出版年は1965年。代表作の一つ『サイボーグ009』を描き始めてまもない順風満帆の時期ですが、じつはまだ27歳という若さ。そんなときに、マンガの描き方本を依頼され、描き切るノウハウがある、というのに驚きます。

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現代っ子からすると「今のマンガと昔のマンガは全然違う。古い絵柄を描きたいわけではないし…」と拒絶感があるかもしれません。しかし、新しい技法は、基本の上に成り立っていくもの。自分独自の手法を身につけたかったら、原点からしっかりと学ぶべきでしょう。これについて、氏が「まえがき」で書いている漫画論が秀逸ですので、次に一部をそのまま紹介してみたいと思います。

「…マンガの世界も、このアッという間に、随分と変化がありました。20年前は漫画がまんがになったぐらいのところでしたが、それからマンガになり劇画になり、現在ではとうとうコミックになってしまいました。しかし、基本的なテクニックや精神は、そう変わってはいないし、変わるはずもありません。…」

本書では、ペンの選び方から、心理描写のしかた、アイデアの出し方まで、技法や心構えに至る、マンガ家に必要と思われるほぼすべてが網羅されています。実際にマンガをテキストにして、「ここで、このようにギャグを用いるのだ」といったわかりやすさ、具体性も、志望者にとってはありがたい限りです。

また、自らがマンガ家を夢見る少年から実際にマンガ家になって大成するまでの半生を、細かく丁寧に綴ってくれています。読んでいると、ハウツー本でありながら、まるで師匠について丁寧に指導を受けているようなあたたかい感覚に包まれるでしょう。

近年は、「師弟関係に乏しい」などの嘆きを聞きます。
プライベートにまで影響し得るのを嫌い、若い人が師匠を持ちたがらない。ベテランも、煩わしさから、弟子を持ちたがらない。そんな傾向があるようです。しかし、師弟関係という濃密な関係だからこそ、師匠から弟子に、技術から息遣いまでが継承されるのかもしれません。

本書の出版翌年に、さっそく続編である『続・マンガ家入門』が出版されました。それだけ、マンガ家を目指す少年少女たちの間で評判となったのは、想像にかたくありません。

マンガ家志望者なら、ぜひ目を通しておきたい名作です。

目次。入門編とテクニック編の2部構成

石ノ森先生から、マンガ家志望者へのやさしくも熱いメッセージで、本書が始まる。「マンガ家になりたかったら、ただひたすらに書くこと。それ以外に上達の方法はない」「一生けんめいかくこと。たゆみない努力」

マンガを描く「道具」について。どのような鉛筆がいいのか、消しゴムは何円くらいのもの(当時の物価で)? ペンは?

「かきかた」について。鉛筆やペンの基本的な握り方から…と、冗談だってときには入れつつ、読者の緊張をぬぐい去ってくれる優しい心遣いが嬉しい

自身がマンガ家として大成していった半生を、惜しげも無く披露してくれる。まさに生きた指南書

トキワ荘時代。仲間の大切さを教えてくれる

苦心の末に生み出された、氏の代表的キャラクター「仮面ライダー」

実際にマンガをテキストにして、キャラクターの役割や作り方まで教えてくれる (C)石森章太郎プロ