【ダ・ヴィンチ2016年10月号】今月のプラチナ本は 『罪の声』

今月のプラチナ本

2016/9/6

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『罪の声』

●あらすじ●

京都でテーラーを営む曽根俊也は、ある日父の遺品からカセットテープと黒革のノートを見つける。ノートには英文に混じって製菓メーカーの「ギンガ」と「萬堂」の文字。テープに吹き込まれていたのは自分の幼い頃の声。しかもそれは、31年前に発生し、未解決のままとなっている「ギン萬事件」で恐喝に使われたテープの内容と完全に一致していたのだ。一方で、ひょんなことからこの事件の真相を追うこととなった文化部の新聞記者・阿久津はやがて何かに突き動かされるように取材にのめり込んでいく。ふたりの男がたどり着いた果ての「真実」とは──。
昭和最大の未解決事件のひとつ「グリコ森永事件」を題材に、元・新聞記者である著者が綿密な取材によって書きあげた本格サスペンス。

しおた・たけし●1979年、兵庫県生まれ。関西学院大学社会学部卒。新聞社勤務後、2010年『盤上のアルファ』で第5回小説現代長編新人賞を受賞し、デビュー。同作は第23回将棋ペンクラブ大賞(文芸部門)も合わせて受賞した。現在本誌にて『騙し絵の牙』を連載中。

罪の声

塩田武士
講談社 1650円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

腹にズシンとくる重たい一撃。そんな小説です

あの「グリコ森永事件」で、脅迫テープには子どもの声が使われていた……ではその子は誰で、その後どんな人生を歩むこととなったのか? 当時10歳くらいならば、いま40歳前後。とっくに時効となった“昔”の事件のようでいて、その子どもの人生はまだまだ続いているはずだ。本作では、フィクションとして固有名詞こそ変更されているが、発生日時や場所、脅迫状の文言、報道内容に関しては史実通りに書かれているという。ノンフィクションのように“現実”を積み上げて、著者が追い求めるのはしかし、犯人ではない。現実の事件報道や検証本では、ほとんど光を当てられなかった“テープの子ども”たちの人生だ。エンタメのスピード感に乗せて、現実にあったかもしれない人生の痛みを正面から描いた本作は、小説の王道を行く傑作だと思う。

関口靖彦 本誌12月発売号は、毎年恒例「BOOK OF THE YEAR」特集。そのアンケートが9月6日から始まります。あなたの「今年よかった本」、ぜひ教えてください。詳細は本誌6ページへ!

 

フィクションならではの圧倒的読後感

世間を騒がせる事件は数々あれど、とりわけその不気味さ、不可解さから強く印象に残っていたグリコ・森永事件。本作はそれをモデルとした小説であるが、読み進めるうちにすぐにその記憶が蘇ってきた。テーラー店主の曽根俊也と文化部新聞記者の阿久津英士、思いがけなく未解決事件の真相解明に挑むことになった二人の男。まったく立場の違う二人ながら、それぞれに切実さをもって、その闇に斬り込んでいく。かつて新聞記者だった著者の取材力、作家としての物語の想像力と構成力が見事に融合し、人間ドラマとしても事件小説としても圧巻の作品となったと思う。とくに自分が知らず知らずに、社会を震撼させた、あの事件に加担していたのかもしれないという導入は秀逸。あの禍々しい当時の雰囲気を知る者として、一気に持っていかれました。

稲子美砂 11月号の『3月のライオン』特集に向けて、日々取材を進めています。羽海野さんやアニメ&実写映画の監督インタビューなどかなりの大ボリューム、初出し情報もありますので、ご期待ください。

 

大人の物語のドキドキが味わえる

ある日自宅で見つけたカセットテープ。再生してみると、幼い頃の自分の声が聞こえる。その中身は31年前の未解決事件で恐喝に使われたテープとまったく同じものだった……。実際に起こった事件をテーマにしたことで、私個人の当時の記憶と本作が自然とリンクして、不思議な気分を味わった。そして、畳み掛けるような展開に背中を押され、最後までわくわくしながら読み終えた。エンタメの面白さ満載で、読書の純粋な楽しみ方をさせてくれる作品だと思う。楽しかった!

鎌野静華 東京郊外に住んでいることもあり、夏でも夜はとても涼しい。そんな訳で真夜中に妹とベランダでティータイムを毎晩。お菓子食べ過ぎ……。

 

優しさと執念が生んだ傑作

人間が生んだ巨大な闇──未解決のグリコ森永事件を題材にとりながら、人間の奥深くまで潜った総合小説だ。当時の社会状況がありありと浮かび、事件の全容とそれに巻き込まれた人間が書き倒される。内容はハードだが物語はなめらかで、先が気になって堪らない。そして何より、優しさに満ちあふれた小説だ。登場人物たちは悩み、苦しんだ末に自分なりの答えを出していく。悲劇でも、成長物語でもある。風化した過去の事件を、生きた物語として提示した著者の今後に注目。

川戸崇央 吉田修一さん特集を担当。俳優さんからご友人まで、取材にご協力頂いた皆さんの吉田さん愛がダダ漏れな誌面に。愛される男の秘密に迫ります。

 

平成の作家が昭和の事件を書くこと

塩田さんはコスパが悪い(笑)。『騙し絵の牙』(本誌P95)でもそうだったが、作品のリアリティを徹底追求すべく、毎回恐ろしい量の取材を重ねて、執筆に入る(ちなみに本書では、主人公が英語をどれだけ話せるか知るべくご本人も英検準一級を取得していた)。「グリ森事件」の脅迫テープに使われた子供たち。読後には、彼らは今、どんな人生を送っているのだろうかと想いを馳せる。平成の作家が昭和の事件を書く意味を、コスパの悪い作家だからこそ見事に書ききったのだと思う。

村井有紀子 『罪の声』インタビューは本誌P87へ……これぞ小説を読む醍醐味を存分に味わえる作品! 本誌連載『騙し絵の牙』も企画から3年を要しました。

 

未解決事件の真相を解く以上の面白さ

とてもフィクションとは思えないリアリティと生々しさに、舌を巻く思いだ。どこまでが事実なのか気になって、読後すぐに「グリコ森永事件」をネット検索して読み漁ったほど。犯行に声を使われた子供たちが、大人になった今それぞれに抱える悲愴。真相に迫るなか濃くなっていく、阿久津の新聞記者としての覚悟。圧巻の社会派ミステリーであり、人間ドラマに胸が詰まる。事件に関わった様々な人間の深淵、そして今とこれからにしみじみと寄り添うような、骨太の一冊。

地子給奈穂 ポケモンGOを始めてから土日の散歩が趣味に。運動嫌いのくせに、ほんとよく歩く……。いい運動不足解消です。※マナーは守ってプレイ!

 

ジャーナリズムの良心が光る

ひとつの未解決事件をふたりの男が追う。事件への肉親の関与を疑う男と、文化部に所属する新聞記者、それぞれの立場が絶妙だ。彼らを襲う本当の苦しみは、未解決事件を暴くことの困難ではなく、事件の「深淵」に光が当てられることによって社会に引きずり出されてしまう多くの被害者と、自分自身の〝痛み〟。だが、その痛覚こそが彼らが真相を解き明かしていくための最大の武器となっていくのだ。圧巻の社会派サスペンスだからこそ、本作の根底にある良心がやさしく光る。

高岡遼 モデルとなった「グリコ森永事件」は自分の世代にとっては〝歴史〟の話。そんな遠い出来事をぐっと近づけてくれる、小説の力を再確認しました。

 

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