第144回芥川賞受賞作! 日常はこんなにも奇跡にあふれている

小説・エッセイ

2012/1/2

きことわ

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 新潮社
ジャンル: 購入元:BookLive!
著者名:朝吹真理子 価格:1,037円

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生きていることはすでに奇跡の一部だと思いませんか? 私は「きことわ」を読んで、何気ない日常のかけがえさを改めて感じ、ぐっと胸が熱くなりました。

この物語はいたってシンプル、昔は姉妹のように仲の良かった貴子(きこ)と永遠子(とわこ)だったけど、ある事情からすっかり疎遠になってしまっていた。そのふたりが25年後、幼少期に遊んで過ごした葉山の別荘へ再び訪れ出会うというもの。

わくわくするような大冒険でも、涙があふれ出るような感動話でもない。とりとめのない日常を描いています。

それなのに私は、この作品を読み始めたそばからのめり込むようにして一気に読み終えてしまいました。ひとえに25年と言ってもその歳月は長く、周りの人、物、事、あらゆるものが変化します。当時、8歳だった貴子は33歳に、15歳だった永遠子は40歳に、歳をとるのはあたりまえなのだけど、以前の記憶がお互いに少女の姿で止まっているのだから、いざ再会となると嬉しさよりも妙な緊張が先行してしまうものです。

お互いに待ち合わせの葉山の別荘に向かう中、双方の心情にうっすらと漂う緊張感に私まで「あーなんか会うのこわくなってきた」と思ってしまいました。それも、筆者の描写が丁寧だからこそと思うのです。

まあ、その緊張の再会も大きな百足の出現によりすっかり緩いものになってしまったのには、「いい意味で裏切られた~」とくすりと笑ってしまいました。

無事再会を果たしたふたりは昔の曖昧な記憶を探ったり、すっかり大人になった部分と全く変わらない少女の面影を何気ない中に見ていくのですが…。

例えば、誰かに自分の生い立ちを話しても、「ふ~ん、そうなんだ」という相づちを返してくれるだけかもしれない。でも自分にとってはそんな何気ない日常こそ、大切なものだと思えるはずです。読んでいる最中には子どもの頃の自分の思い出しながら、読み終わった後にもふと忘れかけていたあの人はどうしているだろう? なんて思ったり。ほのかな余韻が残り優しい気持ちにさせてくれる物語です。

身のまわりは数字できれいに仕切られていて一日には終わりと始まりがあるけど、実はずっと一本の時間軸の上を歩いているんですよね。そんな壮大なテーマを一番身近な、この何気ない日常を通して描いたこの本は、本当にすばらしい! 何度もゆっくりと読み返して、味わいたくなる作品です。