作家亡き後も作品は残り。らもファンは不滅かも

小説・エッセイ

更新日:2012/1/5

僕にはわからない

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : 双葉社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:eBookJapan
著者名:中島らも 価格:420円

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中島らもという作家について私は「何か面白いことをのんびりと好きなように語る人」というイメージを持っていた。彼が劇作家であったことも俳優の経験もあったことも、彼が昭和27年生まれであることも実は今回はじめて知った。文章からはもっともっと若い人を想像していたので意外だった。朝日新聞にて『明るい悩み相談室』を楽しみにしていた人も当時は多かったと思う。

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私の「らも観」はあの当時に受けたもの。彼の訃報は4年前だったが、細く長く続くタイプの作家だと思っていたのでとても残念に思った。亡くなってから、彼の作品の重みは増してゆくように思う。ドラッグに浸っていたとしても、アルコールにおぼれていたとしても、彼の作品というのはじんわりと優しく、読みやすい。

この1冊は新たな彼の一面をのぞくにふさわしい作品だ。らも氏の興味は子供のそれのように底なしである。

第1部「僕にはわからない」、第2部「僕はギョッとする」、第3部「僕は怖がりたい」、第4部「わるもの列伝」という構成。「人は死ぬとどうなるのか」では、ジョルジュ・バタイユの「連続と不連続」というコンセプトを死後の世界に当てはめて語ったり、「人造人間は泣くのか」では、ホラー映画の話に始まりながらも、神話のピグマリオン、天才発明家ウォルフガンク・ケンブレン、世界で初めて人工胎児を作ったというイタリア人学者のダニエロ・ベルトッチから呪法によってやはり人造人間を作ったという西行法師の話まで、実に博学に、実に多岐にわたって、このテーマが昔からどのように扱われてきたのかを、のんびりと語ってくれる。

らも氏は稀代のホラー映画愛好家で日に1本は見ていたというから、彼の頭の中は常々、向こうの世界に脱線しやすかったのかもしれない。なのにマニアックな域に収まらない一般受けする教養と、語り口を持っている作家であったのだと再認識して、改めてその死が悔やまれることしきり。

後半の「ケニアの呪術医」は短いながらも秀逸のエッセイだと思う。年を経るごとに熟成し、大家(たいか)になってゆく作家が王道とすれば、氏はまるでその軌道から外れるが、私はらも氏の、年齢も世代もゼネレーションの影響も感じさせない朴訥とした語り口や、フォーカスの当て方が好きだ。改めて彼の文庫本を買いたいとも思った、電子書籍の1冊。

「死後の世界」を語るのに、丹波哲郎とジョルジュ・バタイユを出すあたりのセンスがなんともいえません

この1冊の中での一番のおすすめ「ケニアの呪術医」。ミニ旅行記でもある作品

幼少期に偉人伝ばかり読んでいた作家による「わるもの列伝」。「わるいやつほどよく笑う」など、なるほどの観察眼 (C)中島らも/双葉社