自由の国で起きた、粛清の嵐

公開日:2012/1/12

ハリウッドとマッカーシズム

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 : インタープレイ
ジャンル:ビジネス・社会・経済 購入元:eBookJapan
著者名:睦井三郎 価格:648円

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国際政治評論家、反戦運動家の陸井三郎の書。毎日新聞社の週間エコノミストに連載していたものをまとめたものである。

マッカーシズムとは1950年、アメリカ合衆国上院共和党議員のジョセフ・レイモンド・マッカーシーが関わり、ハリウッド映画界などをも巻き込んで大規模な「赤狩り」に発展した事件全般をさしている。

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本書でも語られるが「赤狩り」自体はすでに1940年代後半から始まっていた。
アメリカ合衆国下院非米活動委員会による「ハリウッド・テン」の召喚は有名な事件である。脚本家アルヴァ・ベッシー、映画監督ハーバート・ビーバーマン、脚本家レスター・コール、映画監督エドワード・ドミトリク、脚本家リング・ラードナー・ジュニア、作家ジョン・ハワード・ローソン、作家アルバート・マルツ、脚本家サミュエル・オーニッツ、プロデューサーのエイドリアン・スコット、映画監督ダルトン・トランボなどハリウッドの映画界で活躍する10名を共産党活動に関与している疑いで、非米活動委員会が取り調べを行うために召喚したのである。

非米活動委員会とは、「侵略者を隔離せよ」をスローガンに、そもそもローズヴェルト大統領がドイツ、日本、イタリアのファシズム台頭を防ぎ、宣伝、スパイ活動を主として調査するという名目で設置された機関である。しかしそのメンバーは設立当初とは異なり、ローズヴェルト大統領によって展開されたニューディール政策反対者や南部超保守派、反ユダヤ主義者などで構成されていたという。非米活動委員会による取り調べ後、ワシントン連邦地裁はハリウド・テンに対し、簡単な審議のすえ、全員にまったく先例のない1年ないし6ヵ月の有期刑と1000ドル前後の罰金刑を科する重い判決を下したのである。

ハリウッド・テンを突破口に、映画、演劇、ラジオ、テレビなどの分野で、おおよそ600人、連邦、州、自治体などの職員や教師、大学、研究機関などの学会から会社、労働組合、さらには一般事務や郵便配達に至るまで、1950年代までにおそらく何万人もが、非米活動委員会に密接に関与したFBIによって、赤狩りのブラックリストに載せられ、抗弁の機会も認められずに本来の職から追放されていったのである。

本書では、赤狩りで召喚されたドイツ共産党のジャーナリストであるゲアハルト・アイスラー、ハリウッドの女性脚本家ベス・タッフェル、アメリカ共産党員だった推理小説家のダシール・ハメット、そしてハメットを告発し、転向して内通者となった映画監督エリア・カザン、公然とハリウッド・テンを支援したアーサー・ミラーなどのエピソードが記されている。

自由の国アメリカ、そしてその象徴でもあった映画業界に吹き荒れた粛清の嵐。この時代を耐えていた人々や、この時代を追想する人々にとっては今なお、心の傷痕は深い。だが事実から目を逸らしてはいけない。本書はそのことを読者に刻み込んでくれる。

ハリウッド・テンの人々

有罪判決直前のハリウッド・テンの写真

マッカーシーの姿

内通者のリストまで本書には記されている (C)Kugai,Saburo 1996