乱歩・久作の次はこれを読め! 濃密な毒をはらんだ幻覚的ミステリー

小説・エッセイ

公開日:2012/1/12

狂い壁 狂い窓 綾辻・有栖川復刊セレクション

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 講談社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:竹本健治 価格:756円

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こんなミステリーが読みたいのです。
ふだん目にしている世界ががらがらと音を立てて崩壊してゆくような、自分が自分であることの根拠が不確かになってしまうような、謎が解かされることで世界の混迷がさらに深まるような、そんな不可思議で奇妙なミステリーが読みたいのです。たとえばそう、夢野久作の『ドグラ・マグラ』のような。

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わたしが竹本健治の作品を長年追いかけ続けているのは、そんな願望にまっ正面から応えてくれるから。あの伝説的なデビュー作『匣の中の失楽』をはじめとして、『ウロボロスの偽書』『閉じ箱』『クレッシェンド』など、竹本健治の異形的ミステリーの数々は、作品世界そのものが大きなひとつの謎です。ラストで探偵が登場して、謎解きが終わっても、作品世界を覆う異様なムードは決して拭われることはなく、さらに巨大な混沌のなかに読者は放り出されてしまうのです。

この『狂い壁狂い窓』にしてもそう。作品の舞台は昭和初期に立てられた古い木造アパート「樹影荘」。いわくありげな住人たちが暮らすこのアパートで、次々と不可解な事件が起こりはじめます。天井からしたたる血。投げ込まれたマネキンの首。トイレに赤いペンキで描かれた死の文字。いったい全体このアパートでは何が起こっているのか。そう思ってページを繰っても、事態はどんどん不可解さを増すばかり。読み進めるうち、読者は見知らぬ町に放り出されたような気分を味わうことでしょう。それは心細く、恐ろしい読書経験ではあるけれど、決して不快なものではないはずです。ミステリーやホラーを読む楽しさとは、そうした心細さを味わうところにあるのではないでしょうか?

本書は2007年「綾辻・有栖川復刊セレクション」として講談社ノベルスより刊行された作品の電子化です。綾辻行人、有栖川有栖という当代の人気作家2名が太鼓判を押した作品、と聞けば読んでみたい方も多いのではないでしょうか。鬼才・竹本健治が腕によりをかけて挑んだ幻覚と妄想の一大アラベスク。おもしろい幻想ミステリーが読んでみたいという人、江戸川乱歩や夢野久作の次に何を読もうかと思っている人には是非おすすめしたい、濃厚な毒をたっぷりとはらんだ怪作です。

これが舞台になる樹影荘。古い病院を改築した木造アパート

冒頭のシーン。とある殺人事件から物語は幕を開けます

羅列される虫の名前。文章が大きな魅力

目次より。妖しい章タイトルがすばらしい