乙一待望の最新作は、読者原稿とのコラボレーション!

小説・エッセイ

公開日:2012/2/1

箱庭図書館

ハード : PC/iPhone/iPad 発売元 : 集英社
ジャンル: 購入元:電子文庫パブリ
著者名:乙一 価格:1,007円

※最新の価格はストアでご確認ください。

先日、東京でも初雪が降りました。玄関のドアを開け、まっ白く覆われたアスファルトを目にしていると、乙一さんの短編「ホワイト・ステップ」が頭に浮かんできました。

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「ホワイト・ステップ」はこんな場面からはじまります。主人公の少女は小さな町「文善寺町」に引っ越してきたばかり。元日の朝、彼女は雪に覆われた公園でふしぎな足跡を発見します。その足跡は、公園を横切ってベンチのところまで延び、そこでふっつりと途切れていました。足跡をつけた人物は一体どうやって公園を出たのでしょうか? ひょっとして透明人間?

一方、大学院生の近藤も同じような発見に驚いていました。2人が住んでいるのは、同じ「文善寺町」のように見えて、ちょっとだけずれているパラレルワールド。2人は雪につけられた足跡を使って、互いにコミュニケーションをとりはじめます…。

冒頭でワクワクし、中盤ではハラハラし、結末ではしみじみする。「ホワイト・ステップ」は乙一さんらしい魅力にあふれた、アイデアストーリーの傑作です。しかし実をいえばこの作品、乙一さんのオリジナルではありません。元になっているのはウェブ上の人気企画「オツイチ小説再生工場」に寄せられた読者からのボツ原稿。作品集『箱庭図書館』に収められた6つの物語は、すべて読者のボツ原稿を乙一さんがリライトして完成させたものなのです。

短編集としてはちょっと珍しい試みですが、単なる企画ものに終わっていないのが素晴らしいところ。元作品のアイデアをたくみに活かしつつ、ときには大胆なアレンジをほどこして、クオリティの高い作品に仕立てなおしています。元作品はWEB文芸誌「RENZABURO」に掲載されているので、読み比べてみるのも面白いでしょう。乙一作品が生まれる舞台裏を、こっそり覗いたような気分になれますよ。

少年が小説家になった意外な理由を語る「小説家のつくり方」、強盗に襲われたコンビニでの奇想天外な事件「コンビニ日和!」、偶然拾った鍵にあう鍵穴を探すうち少年が怪事件に巻きこまれる「ワンダーランド」など、年齢性別を問わず楽しめる全6編。本が好き、物語が好きという人にはぜひ読んでもらいたい1冊です。

乙一さんの作品はたくさん電子書籍化されているので、今後もどんどん紹介してゆこうと思っています。

目次より。6編プラス作者の詳しいあとがきを収録しています

文芸部でのイタいやりとりを描いた「青春絶縁体」の一場面。先輩と主人公の悪口の応酬が笑えます

wikipedia、Googleでの検索機能つき

あとがきより。『箱庭図書館』誕生の経緯がつづられています