「あえてちょっと不便」に人が集まる! 京大発の新発想ビジネスとは?

ビジネス

2017/6/8

『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? ~不便益という発想』(川上浩司/インプレス)

 名人がAI(人工知能)に負けた! 2017年5月20日電王戦最終局の結果は、将棋ファンのみならず多くの人が注目したのではないか。棋士対AIのこれまでの対戦成績を見れば、棋士が苦戦を強いられることは必至。

 しかし今回AIに挑むのはタイトル保持者、それも将棋界最高峰の名人・佐藤天彦だ。が、その佐藤をもってしても惨敗とは…。今や機械は単純作業のみならず、車や飛行機の自動運転、自動翻訳、お年寄りを癒す介護ロボット、医師や弁護士にアドバイスできる人工知能まで開発され、あえて「人間」がしなくてはいけないことはどんどん少なくなっていく。これからも減り続けるのだろう。確かに便利だし、楽だ。とはいえ、なんだか釈然としない。未来にわくわくしない。

 もしそんな気持ちになるなら『ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? ~不便益という発想』(川上浩司/インプレス)をお勧めしたい。京大教授が提唱する「不便益」、つまりこれまで便利や楽を追求するがために排除してきた「不便」が使えるという、「不便」の効用を語る一冊だ。

■「あえてちょっと不便」が世の中を楽しくする!!

 自宅に風呂はあるが、あえて山奥の秘湯を訪ねたい。近所にスーパーがあってもわざわざベランダ菜園をする。効率という視点で見たら無駄ばかりなのだが、人は時間をかけて行く特別な場所、電車やバスに揺られる自分だけのストーリー、手間暇かる喜び…そんな「不便」にこそ面白みを感じるところがある。便利を追求すると(例えば自宅の風呂場を高機能にしたり、宅配野菜を手配したり)、これらの味わいがごっそり失われる。楽だけれど、すごくつまらない。まさに今がそんな時代だが、だったら便利に適量の「不便」を持ち込んでみよう。

 例えば本書には「あえて詳細なルートを提供しない観光ナビシステム」が紹介されている。道がよく分からないことで利用者はナビとにらめっこするのでなく自分の目で周囲を見るし、人とコミュニケーションすることになる。当初は予定になかった面白そうな店を見つけることもあれば、行きたい場所にたどり着かないことすらあるだろう。しかしすべてが見通せてお膳立てされている旅より、何倍も豊かな体験ができ、記憶に残る。

 他にもあえて自動ドアでなく手で開け閉めする引き戸を採用した幼稚園や、バリアフリーをバリア「有り」にしてお年寄りの能力低下を防いだ老人ホーム、仕事を全部自分でやらず人間と協働するロボットなど、不便だがかける時間や手間以上の何かをもたらす仕組みが考案され、次々と実用化されている。著者は決して昔の生活は良かった、という懐古主義者ではない。便利すぎることでマイナスがあるなら、適度に「不便」を取り入れてより楽しく充実した生活にしていこうという未来志向だ。あなたも仕事に生活に、商品開発にイベントに、便利や効率だけでなく一匙の「不便」を加えてみては? 少し勇気はいるが、世界が驚くほど変わるかもしれない。

文=青柳寧子