現代社会における“新聞”の役割と使命は!? 大メディアの存在意義を問う!

文芸・カルチャー

2017/6/8

『警察(サツ)回りの夏』(堂場瞬一/集英社)

4月30日よりWOWOWで全5回にわたって放映された連続ドラマ『社長室の冬、巨大新聞社を獲る男』。原作になっているのは、堂場瞬一の「メディア三部作」シリーズ(集英社)の完結編だ。このシリーズはマスメディアの代表格である“新聞社”の体質と現代における変容をテーマにした作品で、その第1弾が『警察(サツ)回りの夏』だ。

舞台はうだるような暑さが続く夏の甲府。甲府市内の団地で、幼い子供ふたりの他殺死体が発見される。同居していたシングルマザーの行方がわからず、虐待の末の殺人が疑われて報道各社の取材合戦が過熱していく。全国紙「日本新報」甲府支局の記者、南康祐もまた東京本社に早く復帰したいという思いと甲府の暑さに焦れつつ、現場の張り込みと警察(サツ)回りの日々を送っていた。そこへ被害者の祖父が自殺を図る。一命はとりとめたもののメディアの報道姿勢が問われる事態になり、ネットの論調は“鬼母叩き”から“マスゴミ叩き”へ変わって騒ぎはさらに大きくなっていく。

そんな中、懇意にしている警察内部の“ネタ元”から捜査の進展に関する極秘情報を入手した南は、それをもとに「母親発見。事情聴取の後、逮捕の方針」という特ダネ記事を報道。この大きな手柄が東京本社復帰への足がかりになるはずだったが、そこには大きな罠が隠されていた。騒動の背後に隠された陰謀に南は翻弄され、やがてそれは日本新報だけの問題ではなく、メディア全体のあり方を問う事態へと展開していく――。

警察小説とスポーツ小説を大きな軸に驚異的なペースで著作を発表し続ける作家・堂場瞬一は、デビュー以前に全国紙記者として働いていたという経歴の持ち主。本社返り咲きを狙って特ダネを欲しがる地方記者の焦りと野心、共同戦線を張りながらもお互いを出し抜こうとする他社の記者とのやりとりなど、本作で描かれる新聞社で働く者たちの行動原理と心情のリアルさは記者という職業の経験が活きたものだろう。

ひとりの記者が罠にはまってしまったがために引き起こされる事態は、新聞社という一大メディアが抱える問題をえぐり出していく。社会の木鐸と呼ばれてきたジャーナリズム機関としての驕り、被取材者をどこまでも追い詰めていくメディアスクラム、誤報・虚報に対する責任の取り方、そして権力を監視して真実を追求する新聞社の役割と使命。これらはすべて小説の中だけではなく、現実の新聞社が直面している問題だ。

ネット炎上やメディア規制論、第三者委員会による報道機関の調査など、現実の出来事にもリンクするようなエピソードを重ね合わせることで問題点を浮き彫りにし、伝統ある巨大メディアである新聞が揺れ動く様をスリリングに描く。さらに、そこに個人対組織という普遍的なドラマと葛藤、そして子供を殺した犯人は誰かという本筋のミステリーを巧みに絡ませていき、物語は大きな構造と同時代性を持った事件小説に仕上げられている。

堂場瞬一は、新聞というメディアの存亡をどのように見ているのか。第2作『蛮政の秋』、この度ドラマ化された完結編の『社長室の冬』まで、現代社会における新聞の意義を問うシリーズだ。

文=橋富政彦