女性の方が依存性が高いというのは本当だった?

恋愛・結婚

公開日:2017/6/17

『女ごころの発達臨床心理学 オトコは知らない、オンナは気づかない 人間関係のホンネを探る女性学』(長尾博/福村出版)

 「女ごころと秋の空」という言葉があるほど、女ごころは複雑怪奇なものだ。その複雑さたるや、男どころか同じ女ですら理解に苦しむこともある。そんな女ごころは、どんな風に形成されていくのだろうか? そんな疑問に心理学を中心にした学術的方面からアプローチしたのが『女ごころの発達臨床心理学 オトコは知らない、オンナは気づかない 人間関係のホンネを探る女性学』(長尾博/福村出版)である。本書は、過去の心理学的研究で言われてきた女性の発達心理について、著者自らが調査研究を行い、その真偽や現代の子どもにもそれが当てはまるか否かを検証する構成となっている。

 よく使われる「女らしさ」という言葉がある。この言葉が指し示すところを正確に定義することは難しいが、一方で社会の中にそういった認識がルールに近い強制力を持ってまかり通っていることも事実だ。こういった社会が求める「女らしさ」を確立することを女性同一性の確立という。この確立の過程は、大まかに3つにわけられる。それは、まず自らの性を受容し、次に親の影響による性役割の同一性が果たされ、その後、友人・恋愛対象・社会的情報などの影響を受けて確立されると理解されている。ちなみに、心理的両性具有(男らしさ・女らしさの両方を同時に同程度持っている状態またはその人のこと)の場合、自己実現度が高くなる傾向も認められているようだ。

 さて、これらの事柄は2017年現在からおよそ30年前の研究結果である。30年も経てば、社会状況もだいぶ変わるし、それならば今の子どもたちは同じような発達過程を辿っていないかもしれない。本書には近年の子どもたちの女性同一性の発達に関する(中学生~大学生の女子を対象にした)研究結果が掲載されている。それによれば、現在の女子学生たちは30年前よりも女性同一性の発達度が低いという結果になった。ただし、ここで調査された「女性同一性」すなわち女らしさの定義は30年前に考え出されたそれであり、すなわち献身的・従順・静か・愛嬌・言葉遣いが丁寧・繊細・かわいい・おしゃれなどの昭和的な女性イメージを憑拠としたものであるため、時代が変わりつつある現代の女性たちにこれらが当てはまりにくい(=これらの要素が形成されにくい)のは致し方ないかもしれない。

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 よく目にする言説のひとつに「女性は甘えたがりである」というものがある。これは、女性の方が男性よりも相手に依存しやすいという意味でもある。ちなみに、ここで言う依存とは心理的・物質的に頼ろうとする状態を指す意味であり、心理学的に言う愛着とほぼ同義語である。著者の調査研究によると、やはりこの傾向は女子の方が強いという結果になった。ただし、同時に女子は恥に対する意識が強いという結果も出ている。元々日本には「人に恥をかかせないこと」を重視する文化があり、更に自分が他人と比べて劣っていることを恥や羞恥心と表現することが多い。こういった意味での羞恥心は、性差では女子の方が強いそうだ。さて、この場では2つほど“女子の方により強く見られる傾向”を挙げてみたが、実はこの2つには共通して言えることがある。それは「だからって悪いことではない」だ。依存性が高いということは、困った時や辛い時に迷わずSOSを出せるということでもあるし、羞恥心が強いということは他人の視点から見た自分というものを考えることができるとも言える。女性のこういった心理は、発達段階、特に中学生から高校生の思春期の時期に強く見られ、その後は年齢と共に収まっていく傾向にあるという。発達過程においてより強く働くこれらの心理は、助けを求めることや他人の視点を考えることを覚えるうえで重要なことだからこそ、存在しているのかもしれない。

 多くの人は、3~4歳頃の幼児期にはもう自分の性別を自覚しているという。そして、小学校に上がる頃には異性よりも同性同士のグループを作る傾向が強まり、思春期に入ると恋愛感情や恋へのあこがれも強まることからより性差を意識するようになる。こういった性別に根差す心理の発達を解明するには、生物学も取り入れた上での長々とした議論が必要となる。脳の構造すら違うと言われる男女――その性差によって、働きやすい心理に違いが出るのは当然かもしれないが、やはりそれはただ違うだけなのだから「だからって悪いことではない」と言いたいものだ。

文=柚兎