蕎麦屋に「庵」が多いのはなぜ? 日本人と蕎麦の長くてコシのある歴史
2017/7/26

米アップルの創業者スティーブ・ジョブズは日本の禅の影響を受けていたといわれる。「シンプルこそ最高の洗練である」と訴えた彼が愛した和食が「蕎麦(そば)」だ。アップル本社の社員食堂には彼が取り入れさせた蕎麦メニューがいまも残っている。
寿司や天ぷらに並び、蕎麦は日本料理の代表格となっている。日本人と馴染みが深い蕎麦だが、日本人はいつ頃から蕎麦を食べはじめたのだろうか。『蕎麦の旅人 なぜ、日本人は「そば」が好きなのか』(福原耕/文芸社)では、日本人と蕎麦の歴史、「年越しそば」や「引越しそば」の由来から、どうして蕎麦屋の屋号は「庵」が多いのかなど、日本だけでなく海外にも伝わる蕎麦文化を紹介している。
身近で知っているようで実は知らない蕎麦の世界を少しだけ覗いてみよう。
■蕎麦の起源はどこ?
蕎麦の起源は中国四川省の東義河渓谷周辺とされている。日本に伝来したのは縄文時代(約3000年前)で、十数ヶ所の遺跡から蕎麦の粉や種が発見されており、稲作よりも先に蕎麦が栽培されていたというから驚きだ。まだその頃は粒を茹でて食べており、麺にした「そば切り」の発祥は、信州説や甲州説など諸説あって判明していないらしい。
蕎麦が全国に広まったのは禅が関係しているという。禅宗では「五穀断ち」の修行中も、わずかな野菜と蕎麦だけは食べることを許されていた。京都禅林(臨済宗)の禅僧が、応仁の乱(1467年)の戦火を避けて全国各地へ逃れて、修行僧が寺内で作る「寺方そば」から、参詣客への「門前そば」へと世間に普及していったと考えられるという。そういえば、由緒あるお寺の参道には老舗の蕎麦屋が多いように思う。
■なぜ年越しや引越しといえば蕎麦なのか?
もともと江戸の商家では「晦日そば」といって、月末ごとに集金や棚卸、大掃除の作業で多忙になる奉公人に蕎麦の出前を振る舞う習慣があった。それが次第に廃れて大晦日だけ残って「年越しそば」になったという。かつては節分、雛祭り、端午の節句にも蕎麦を供える風習があり、催事や年中行事にはつきものだったそうだ。
また江戸の庶民の生活の最小単位は「向こう三軒両隣」といって、新参者は「引越しそば」をもって挨拶に回った。「お傍にまいりました」という江戸っ子の大好きな語呂合わせであるが、なぜ蕎麦なのかといえば、単純に安上がりで江戸に蕎麦屋が多かったからだろうと推測している。記録によれば、江戸時代末期には蕎麦屋が3763軒もひしめいていたというから江戸の名物といわれるのもうなずける。
■蕎麦屋に庵が多いのはなぜ?
蕎麦屋には「庵」がつくお店が多いと感じたことはないだろうか。それも実はお寺が関係している。江戸時代中期、浅草の称往院の境内に「道光庵」という庵があった。そこの主人は信州出身のそば打ちの名人で、参詣客へ振る舞っていた蕎麦が話題となり、蕎麦目当てで大勢の参拝客で賑わった。
その人気は当時のグルメランキング本である「富貴地座位」の麺部門でトップになるほどだったというから相当なものだ。あまりの騒ぎに修行の妨げになると称往院の和尚が「蕎麦禁断の碑」を建てて境内での蕎麦を禁じてしまった。その名声にあやかろうと江戸の蕎麦屋は「庵」を屋号につけるようになったという。
最近の蕎麦事情に目を向けると、地元で収穫した蕎麦を使った郷土料理を村おこしに使う市区町村が話題になっている。さらに最新の遺伝子研究によって、将来はアレルギーの出ない蕎麦が品種改良で生まれる可能性があるという。日本人と蕎麦の付き合いはまだまだこれからも続いていくようだ。
文=愛咲優詩
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