人の性格は「間取り」で決まる!? 一風変わった13の“間取りものがたり” 大竹昭子著『間取りと妄想』

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/12

『間取りと妄想』(大竹昭子/亜紀書房)

 人は、人生で何回くらい間取り図を見る機会があるだろうか。初めてのひとり暮らし、同棲、結婚、離婚、転勤……、間取り図を見ながら想像するのは、ほとんどの場合、そこで始まる新しい自分の暮らしだろう。だが、本書はそれとはかなり趣を異にする。ある間取りを切り口に、そこ住む他人の暮らしを覗き見たような、これまでありそうでなかった視点で書かれた物語だ。

 『間取りと妄想』(大竹昭子/亜紀書房)は、全部で13の間取りにまつわる短編小説集。亜紀書房ウェブマガジン「あき地」に2015年8月から2016年12月までに発表された大竹昭子氏の12の作品を大幅に改稿したものと、書き下ろしの1作品から成る。

 各物語のタイトルページをめくると、これから展開される物語の舞台となる間取り図のページがある。まずはじっくりと間取り図を頭に入れてほしい。当然ながら、どの物語においても間取りは重要な要素。本書には間取り一覧図が別紙で付いているので、間取り図を確認しつつ、物語を読み進めることができて楽しい。

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 作者の大竹氏は「無類の間取り好き」と紹介されているだけあって、本書に出てくるのは、どれも一風変わった間取りばかり。きっと、楽しんでそれぞれの間取りを考えたに違いない。「船の舳先にいるような」「四角い窓はない」「仕込み部屋」「家の中に町がある」など、タイトルと間取り図から、いったいどんな人物がここで暮らしているのか、想像が膨らむ。

 物語に出てくる様々な間取りのように、そこに暮らす登場人物も様々だ。彼らが風変わりな間取りの家に住むからには、それなりの理由がある。

 「船の舳先にいるような」は、子どもの頃から魅了されてきた三角形の部屋にぴったりの旗竿地(縦長の土地を前後に分けた後方の旗竿状の土地)を見つけ、念願の三角形の家を建てた男の話。彼が、なぜそれほど三角形の部屋に惹きつけられるのか、最後にその謎が解ける瞬間がやってくる。

 希望を叶える間取りもあれば、住人の妖しい秘密、秘かな愉しみを隠すための間取りもある。「隣人」では、正面に窓もドアもない家に住む隣人に興味津々の主人公が、ふとしたきっかけで恋人とともに隣家を訪れ、その家の事実を知る。「仕込み部屋」では、そこに住む女は、誰にも言えない本当の自分を解放するための秘密の部屋を造り、夜な夜なある作業をしている。「浴室と柿の木」で描かれる、何不自由ない二世帯住宅に暮らす家族。舅の部屋の本棚で塞がれたはずの窓から見えるのは…。

 読んでいくうちに、人の性格はどんな間取りの家に住んでいるかによって、ある程度形成されるのかもしれない、または、その性格によって好む(選ぶ)間取りも違ってくるのではないかと思えてくる。ためしに、あなたや親しい人が住んでいる家の間取り図を一度描いてみてはどうだろう。もしかしたら、隠された真実が見えてくるかもしれない。

文=森野 薫