【ダ・ヴィンチ2017年9月号】今月のプラチナ本は 『母ではなくて、親になる』

今月のプラチナ本

2017/8/5

今月のプラチナ本

あまたある新刊の中から、ダ・ヴィンチ編集部が厳選に厳選を重ねた一冊をご紹介!
誰が読んでも心にひびくであろう、高クオリティ作を見つけていくこのコーナー。
さあ、ONLY ONEの“輝き”を放つ、今月のプラチナ本は?

『母ではなくて、親になる』

●あらすじ●

37歳で、第一子を出産。作家の妻と町の書店員の夫の夫婦の家に、赤ちゃんがやってきた! 妊活や健診などの「生まれるまで」のエピソードから、はじめての子育てや保育園落選など「生まれてから」のエピソードまで、子どもが1歳になるまでの驚きの毎日が綴られる。なにかとレッテルを貼られがちな「母」、ではなく「親」として、妊娠・出産・育児に奮闘していく。その日々を通していま私たちが生きる社会を見つめ直す、まったく新しい出産・子育てエッセイ。

やまざき・なおこーら●1978年、福岡県生まれ。2004年、『人のセックスを笑うな』で第41回文藝賞を受賞しデビュー。『美しい距離』で島清恋愛文学賞受賞。ほか、『論理と感性は相反しない』『ニキの屈辱』『昼田とハッコウ』など著書多数。エッセイ集に『かわいい夫』など。

『母ではなくて、親になる』

山崎ナオコーラ
河出書房新社 1400円(税別)
写真=首藤幹夫

編集部寸評

 

誰かを攻撃しない、誰かに縛られもしない

「普通」であることが、なんとなく気にかかっている。職場で、夫婦で、親子で、親族で、ご近所で。叫びながら逃げ出したくなるほどのプレッシャーではない。でも、もやもやと、ふんわりと、「普通はこうだよね」という声がどこからか聞こえてくる。それは外部から言われている気もするし、自分の内なる声なのかもしれない。そんな日々の中で、ナオコーラさんの本を読むと、目の前のもやもやが晴れてくる。自分は「母ではなくて、親になる」だから、夫に対しても「父ではなくて、親になれよ」。普通の女性は、普通の父親は、ではなくて「それぞれが、いい親になれば良い」。明快だ。誰かの思想を攻撃するのではなく、誰かの理想に縛られるのでもなく、ただ明快に「いい」状態を目指す。この明快さを知ることが出来て、ありがたいなと思った

関口靖彦 本誌編集長。毎朝デスメタルTシャツを着て子どもを保育園に送りますが、「オバケだ~」「これ何て妖怪?」とちびっ子に大人気。「親らしい恰好」も幅が広がっているのを感じます。

 

性差にこだわらないこだわり

出産、子育てを通して、著者の生き方のスタンスが垣間見れるエッセイ集。「私の場合」「我が家の場合」「こうしたい」「こうありたい」ということについて、明快に綴った筆致は迷いがなく、とても力強くて読んでいて、楽しかった。育児に遠いところにいる私でも興味深く読めるのは、著者の観察眼、分析力の鋭さと文章に説得力があるからだと思う。育児においては、性差によって役割分担が決まってしまいがちなところがあるが、「母ではなくて、親になる」というタイトルは、それすらもまずはフラットに考えようという宣言なのだろう。“私は「みんなが生き易い世界になればいいな」という思いを持っているが、「女性が」と殊更に言いたくない”――こうした主張はエッセイの全編に貫かれている。潔さとぶれない姿勢に表現者としての矜持を感じた。

稲子美砂 穂村弘さんが講談社エッセイ賞を受賞(小泉今日子さんと同時)。受賞作『鳥肌が』は日常に潜むゾッとする瞬間をホムラ的視点で綴ったもの。装丁もゾッとさせる秀逸さ。酷暑に効きます。

 

赤ん坊に好かれるなんて素敵

ナオコーラさんと赤ん坊の距離感が面白い。「どう考えても、赤ん坊は私をものすごく好いている」「とにかく赤ん坊はこの頃、とみに私に会いたがる」……この唯一無二感を感じられる体験って、きっとあんまりないんだろうな、素敵だな、と読んでいて思った。翻って自身の赤ん坊の頃の出来事を親に聞くと、母乳だろうが粉ミルクだろうが吐いてしまって怖かった、離乳食まで持ちこたえられたのが奇跡だと。ア、アレルギーだったんじゃ……。親って大変だ。親よ、ありがとう!

鎌野静華 最近暇さえあればベランダのイスに座ってお茶を飲んでいる。深夜眠くて仕方ないなら寝ればいいのにベランダにいる自分にバカと言いたい。

 

ときには扱いきれない私も私

産後の著者が葬式に参列する。「おめでとうございます」。そう言われて困るのは自然で、じゃあどうすればいい。私はこうだ、これは違う。徹底した場合分けと選り抜かれた言葉で、著者が自身のケースについて綴っていく。一つ一つの出来事に対して「私」がどう感じたのか、それは「私」はのどの部分が反応したのかについて、思考が重ねられている。私はそう感じた。テーマは子育てなのかもしれないが、それ以上に丁寧に生きること、そのレッスンとして読ませて頂いた。

川戸崇央 若林正恭&冴羽獠特集を担当。映画『打ち上げ花火~』主題歌のDAOKO初小説『ワンルーム・シーサイド・ステップ』は8月10日に刊行です!

 

程よい距離感で心地よい

私には子どもがいるわけではないので、良く目に入る、こういったテーマの作品に思いっきり共感することもできず、ずっと疎遠であったが、今作には“子を持つ”ことに、ほどよい距離感があって、心地よかった。「女性には二つの生き方があって、どちらかを、あるいは両方を、『選ぶ』」に馴染めない─という作中の一文に頷いて、なんとなく気持ちがラクになった。ガチガチに考えないで、自然に流されるままに。そんな風にいつか私も親になれたらいいな、と思えた。

村井有紀子 バレエ教室に通い始めたらハマってしまい、楽しくて仕方ない。しかも肩こりが一瞬で消えて、ゲラを読んでもしんどくない! 続けたいです~

 

タフでやさしい親

「子供は可愛い」と思うけれど、世の中のお父さんやお母さんが口にする言葉と自分のそれは意味が違っていて、痛みや辛さを経験して乗り越えた親だけに通じる、神聖な何かがあるのではないかと考えていた。が、「親」になったナオコーラさんはそうではないときっぱりと言う。苦痛が人を親にするのでも、ましてや子供を可愛いと思う気持ちを下支えするのでもないのだと。それはそれ、これはこれ。なかなかタフな考えだけれど、そのタフさを親ではない自分はとても優しく感じた。

高岡遼 この号が発売される頃に友人の結婚式が。「二次元にしか興味ない!」という10年前の宣言をよく覚えている。それはそれ、これはこれ。なのかな。

 

「らしく」なれなくていいのだ

学生になったり会社員になったり、人生の途中で肩書はあれこれ変わる。それぞれの肩書はなんとなしに求められる「らしさ」があるけど、それが自分とフィットしないこともある。その違和感は、気づかないことにしたほうがラク。しかしそこをごまかさないのがナオコーラさんだ。「母」にまつわる違和感を丁寧に分解していく言葉を読んでいると、自分のずるさが暴かれてドキリとし、でも次第に自由な気持ちになっていく。これはもはや、育児エッセイにして思想書だ!

西條弓子 夏は無性にコーヒーゼリーが食べたくなる! お店によってかなり多様性があって飽きないのです。ナンバーワンは西荻の某喫茶店かなぁ。

 

 

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