日本では1時間に9匹のペースで犬猫の命が奪われている…世界の動物保護施設から考える人と動物の関係

社会

公開日:2017/8/3

『世界のアニマルシェルターは、 犬や猫を生かす場所だった。』(本庄萌/ダイヤモンド社)

 ペットを家族同様に想う人が増えている一方で、保健所では飼い主持ち込みも含めて1時間に9匹の犬猫が殺処分されています。しかし海外に目を向けると、同じ人間と動物の在り
方であるにもかかわらず殺処分がゼロという国もあるのです。

 日本の保健所と世界の動物保護施設とは何が違うのか。日本と他国との動物の向き合い方にはどんな違いがあるのか。

 アメリカ、イギリス、ドイツ、ロシア、スペイン、ケニア、香港、日本の世界8ヵ国、25ヵ所のアニマルシェルターと実際の動物保護の取り組みについて知ることができる1冊の本があります。『世界のアニマルシェルターは、 犬や猫を生かす場所だった。』(本庄萌/ダイヤモンド社)です。本書で見られるシェルターの光景は動物法学者の卵であり、人と動物のより良い関係を願う著者自らが、すべて実際に訪れ、時にボランティアに参加するなどして見聞きしたものです。各国で撮影した数々の写真とともに普段なかなか知ることができない海外の動物たちへの取り組みが紹介されています。

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 著者は17歳のときにイギリスの“生かす”ための明るいシェルターで職場体験をし、日本の暗いイメージを持った保健所の殺処分について考えるようになりました。そして動物にとっても人にとってもよい社会とは具体的にどのような社会であるのかという疑問の答えを求めて動物法の研究を進めながら世界中にあるアニマルシェルターを訪問し始めるのです。

 アメリカでは畜産動物も犬猫などのペット同様に大切にされる光景を目にします。そして警察との連携のもとで行われる動物虐待の調査員による現場への立ち入り調査や、子どもたちへの動物に関する道徳教育のような活動から虐待された動物たちを幸せにするためのケアまで徹底的にシステム化した対策があることも知るのです。

 スペイン・バルセロナを含むカタルーニャ地方では歴史ある伝統であった闘牛を禁止する法律が可決され、「伝統は動物虐待を正当化しない」ということを学びます。トラブルを起こすリスクから難しいとされる保護中の動物の放し飼いを可能とする方法や、離婚後の養育費のような元飼い主から運営資金の一部を調達するシステムを知ります。

 発展途上国でありながら野生動物の保護活動においては先進国といわれるのがケニアです。ケニアでは日本を含むアジアの国々が野生動物を絶滅に追い込んでいる事実を知らされます。

 さまざまな国を回る中で見る多彩な活動から著者はひとりひとりができることとは何かを学びます。そして国民性や文化、環境などによる日本と他国の違いにもあらためて気づかされるのです。

 たとえば考え方の違いについて極端な例をいえば絶対に治らない病気の動物が苦しんでいるとしたら、生きているときの生活の質を重視する欧米では安楽死を検討しますが、日本では命を尊ぶとして安楽死に戸惑いの様子を見せるといいます。

 しかし日本は命を尊ぶ国であるにもかかわらず、殺処分されている動物数が世界の中でも多いという現実があります。中には少しずつでも現状を変えたいと尽力している自治体や民間団体などもありますが、動物は基本的に人間の生活の“ソト”の存在という考えが残る日本では動物、特に野生動物や畜産動物への関心が低く、まだまだ難しい課題があるのです。

 人への凶悪犯罪者が動物虐待の経験者であるケースが多いということは多くの研究でも証明されているといいます。日本でも酒鬼薔薇事件を起こした少年が小学校を卒業するまでに20匹の猫を殺していたり、佐賀の女子中学生がクラスメイトの殺害前に猫の解剖を行っていたと供述したりした事件もありました。それでも日本ではバイオレンスの根源ともなる動物虐待が他の人間の事件に埋もれてしまうことが多いのが現状です。

 著者は「他者の価値を低く見ることがとてつもない暴力につながりうる」と考え、動物への暴力の根本を見つめ直すことで、人権問題、戦争、そのほかのさまざまな問題とともに社会をいい方向へ進めることができるのではないかと提言します。動物問題は動物だけの問題ではないのです。

 生きるための事情は人も動物もそれぞれ異なることでしょう。しかし誰もが生きやすい社会を目指して無理をしなくても行動できることはあります。本書で世界のさまざまな活動を知って自分なりにできる動物とのより良い関係の築き方について一度考えてみてはいかがでしょうか。

文=Chika Samon