「ゼロ女」が熱中するパイロットたちの真実の声とは? 『ドリフターズ』でも大人気菅野デストロイヤーの生きた時代を読む

社会

2017/8/9

『証言 零戦 大空で戦った最後のサムライたち』(神立尚紀/講談社)

『ドリフターズ』(平野耕太/少年画報社)は異世界を舞台に、歴史上の人物が国・時代問わず入り乱れ戦う歴史SFファンタジーだ。歴史ファンにとって「夢の共演」が読める胸熱な展開と独特の世界観が話題の人気漫画である。

 登場するのは織田信長、土方歳三、島津豊久といったファンの多い偉人たちだが、その中に菅野直(かんの・なおし)という零戦の搭乗員もいる。「菅野デストロイヤー」と呼ばれ、数々の伝説を持っているパイロットだ。

『ドリフターズ』をきっかけに、菅野中尉や零戦に興味を持つ20~30代の女性は「ゼロ女」と呼ばれ、「歴女」「刀女」に続き急増中だというが、彼女たちはなぜ「零戦のパイロット」に熱中するのだろうか。その一端が分かるノンフィクションが発売された。『証言 零戦 大空で戦った最後のサムライたち』(神立尚紀/講談社)である。

 本書は、零戦搭乗員の生存者たちへの取材を重ね、激動の時代を生き抜いた方々の「戦中」「戦後」の証言をまとめたもので、『証言 零戦 生存率二割の戦場を生き抜いた男たち』の第2弾である。

 ちなみに「零戦」は太平洋戦争初期に登場し、航空先進国であったアメリカやイギリスの軍機を相手に、一方的とも言える勝利をおさめ続け、連合国軍パイロットの恐怖の対象となった戦闘機のことだ。

 その「零戦」に乗り、戦い抜いたパイロット7名の「生の声」が、人物ごとに語られている本書は、戦中の話だけではなく、子どもの時の思い出やパイロットに興味を持った理由、学生時代の話、恋愛話や結婚について、そして戦後どのように暮らし、取材を受けるに到ったかなどが書かれているので、「人の一生」の中の「戦争」を知ることができる。

 零戦に乗っていた搭乗員は、当時10~20代の若者だったので「戦時中ではない人生」の方が長い。戦争を経験したことで、その後の人生にどのような影響があったか、どういう想いを抱きながら現代を見ているのか、そういったことまで書かれているのが、本書の読みどころの一つである。

 もちろん、最も紙幅を費やしているのは「戦中」のことなので、「戦争の記録」として、興味深く読める内容にもなっている。海軍での生活やルール、敵戦闘機との「空戦」、そして徐々に敗色が濃くなる日本軍の様子、特攻隊について、戦争について、亡くなった戦友たちについて……7名の方がそれぞれの考えや想いを抱えており、涙なくしては読めなかった。

 さて、なぜ「零戦」のパイロットに女性たちが熱中するのか。理由は様々あると思うが、簡単に言ってしまえば「カッコいいから」ではないだろうか。

 本書に紹介されていたのは、自ら志願して軍隊に入った方々ばかり。「徴兵されて無理やり」「嫌だったけどパイロットになった」という方はいなかった。搭乗員は超難関の狭き門でもあるため、パイロットになり空を飛べることを嬉しく思い、それを誇りに感じている方が多いようにうかがえた。

 つまり、消極的に戦争に加わったわけではなく、「自らの意志をもって戦地に赴いた姿」が、零戦という戦闘機で空を舞い戦う「迫力のある」様子と相まって「カッコいい」と感じるのだ。

 だが、そういった考えに眉をひそめる方もいるだろう。本書はパイロットたちを賛美して、戦争を肯定するものでは決してなく、また、零戦の搭乗員を伝説化したり、英雄視したりするような書き方も避けているようだ。なので、漫画から零戦に興味を持つことを、著者やインタビューに応じてくれた方々は、不快に感じることもあるかもしれない。

 しかし、若者たちが零戦のパイロットたちを「カッコいい」と、ある意味キャラクター化して見てしまうのを許してほしいと思う。語弊があるかもしれないが、戦争を知らない世代は、本当の意味で平和を知ることは難しいのではないだろうか。戦争を経験していない人々にとって、「平和」は「日常」でしかない。どうしても、戦争の悲惨さを実体験のレベルで受け止めることはできない。

 けれど、だからこそ、どんなきっかけであれ、戦争に興味を持つことは平和への第一歩になると思う。そして、零戦に乗り、命を懸けたパイロットのことを知れば知るほど、戦争は二度と起こしてはいけないものだという認識は強くなるはずだ。本書は、その端緒となり得る一冊でもある。

文=雨野裾