「猫は、落ち込まない」ってホント? ありのままで生きる猫たちが、教えてくれること

暮らし

公開日:2017/8/11

写真提供:ピクスタ

 猫という生き物は、「毎日を機嫌よく過ごすコツ」を身につけているらしい。猫の自然体の暮らしぶりから、著者が受け取った「生き方のヒント」が満載の『猫は、うれしかったことしか覚えていない』(石黒由紀子/幻冬舎)。著者の石黒由紀子氏は、愛犬と愛猫をモデルにした、センパイとコウハイシリーズが人気のエッセイストである。捨て猫だった愛猫「コウハイ」が主役の本書にも、心やさしい豆柴の「センパイ」が登場し、猫派も犬派も楽しめる一冊となっている。人気のイラストレーター・ミロコマチコ氏による、彩り豊かな猫たちが並ぶ表紙や、ゆるい感じのイラストも楽しい。

 本書のタイトル「猫は、うれしかったことしか覚えていない」は、「コウハイ」が梅干しの種を飲みこんで苦しんだ時に、手術をしてくれた獣医師の言葉だそう。「種で遊んで楽しかったということしか覚えていないから、気をつけないとまた同じことをします。猫とはそういう生き物なのです」と言われたという。「猫は、過ぎたことを引きずることなく、うれしかったことだけを積み上げて生きていくのです」と著者は述べる。

『猫は、うれしかったことしか覚えていない』
(石黒由紀子/幻冬舎)

 歌手の坂本美雨(さかもと・みう)氏(坂本龍一と矢野顕子の娘)が提唱する「猫を吸う(猫のお腹に顔を埋めて、スーハースーハー深呼吸する)」ことが大好き、というほど猫好きな著者は、猫のあらゆる行動から人生を学ぶのだ。

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 「猫は、騒がない」の章は、洗面台の縁に座り続け、任務のように蛇口を見つめている「コウハイ」のお話。水漏れに著者が気づくまで、3日間も慎重にしずくの張り込みをしていたコウハイの姿を、著者は「決して騒ぐことなく行動で示してくれていた」と語る。

 また「猫はじたばたしない」の章では、兄弟猫が死んでしまった「ボンボン」が、亡骸をじーっと見つめ、心に刻み、そのあとは何事もなかったように暮らしたというお話。「現実は変えられない。慌てずただ認めるのみ。猫は起きてしまったことにじたばたしない」と著者は述べる。犬はいつだって、飼い主に、大好きオーラ全開で直球だ。それに比べ猫は、鍵の上に座りこんで隠して石黒氏を困らせたり、お客さんがくるとやたら甘えん坊になってモモンガのようにくっついてきたりと、自分で楽しみや刺激を作りだしているようなのだ。自分の人生は自分で作る…なんて、猫は哲学を持っているように思えてきた。

 本書は、「猫は、誰かと比べない」「猫は、生きる力を持っている」「猫は、チャンスを逃さない」「猫は、引きずらない」など、59章から成る。試しに「猫」を、「成功する人」や「幸せになる人」に置き換えてみても、しっくりきた! 猫から学ぶ人生観もあるのだなー。猫のいる暮らしの面白さがたっぷり味わえる一冊。猫好きのツボを押さえた、ちょっと憎らしくて可愛いイラストも魅力的だ。

文=泉ゆりこ