刑執行の直前、死刑囚はなぜ殺されたのか――? 異様な傑作「死刑囚パズル」を含む、名探偵・法月綸太郞のファースト短編集!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『法月綸太郎の冒険』(法月綸太郞/講談社)

『生首に聞いてみろ』で本格ミステリ大賞を受賞。以降『キングを探せ』『ノックス・マシン』と話題作の刊行が相次いでいる作家・法月綸太郞。『法月綸太郞の冒険』(法月綸太郞/講談社)はその記念すべき第一短編集だ。刊行は1992年。本格ミステリの復興運動である「新本格」が大いに盛りあがっていた時期に生まれた一冊である。

収録作は全7作。いずれもシリーズキャラクターである名探偵・法月綸太郞が登場し、難事件を解決してゆく。ちなみに作者と同名の探偵を登場させるという趣向は、著者が尊敬するアメリカの作家、エラリー・クイーンにならったものだ。
なかでも傑作として名高いのは、100ページを超える「死刑囚パズル」だ。死刑執行当日、拘置所内で死刑囚が何者かによって殺される。誰が、何のために死を待つだけの男を殺したのか? “死刑囚殺し”という矛盾にみちた犯罪のインパクトもさることながら、限定された関係者から消去法によって犯人を確定してゆく綸太郞の推理にとにかくしびれる。今回久しぶりに読み返してみて、そのロジックの緻密さにあらためて唸った。これが学生時代に書いた作品をリライトしたものだというから驚きである。

意外な動機をとことんまで突きつめたのが、“人食い”を扱った異色作「カニバリズム小論」。なんともエグい話なのだが、綸太郞の推理は相変わらずカミソリのように鋭い。ラストに大きなひねりのある「黒衣の家」も、同様にホワイダニット(=なぜやったのか?)をメインテーマにした秀作だ。

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ここまでが前半の3作で、残る4作は綸太郞と彼が思いを寄せる美人司書・沢田穂波のコンビが、本に絡んだ謎に遭遇する連作「図書館シリーズ」となっている。
蔵書のページが切り取られるという事件を扱った「切り裂き魔」、毎日図書館にやってくる女性の不可解な行動を描いた「過ぎにし薔薇は……」などがそうだ。「土曜日の本」は実在する作家名・作品名のパロディが満載で、元ネタが分かれば爆笑必至。意外な一面に触れられる痛快作である。
ハードなタッチの前半とリラックスした雰囲気が漂う後半。通して読むと、A面とB面で印象の変わるレコードを鑑賞しているような気分が味わえる。どちらの面があなたの琴線に触れるだろうか。

著者の法月綸太郞は、巨匠エラリー・クイーンの作風を受け継ぎ、本格ミステリと全力で格闘してきた作家だ。ストレートなものから異色作まで、バラエティに富んだ謎解きが楽しめる本書はその入門編として最適。ここを入り口に本格ミステリの深い森へと踏み込んでいってほしい。綸太郞の活躍をもっと読んでみたい! という方には最近出たばかりのアンソロジー『名探偵傑作短篇集 法月綸太郞篇』がおすすめだ。

文=朝宮運河