EDになりながら辿り着いた境地は…? ノンフィクション作家が挑んだ男の根源をめぐる迷宮

暮らし

2017/9/4

『日本男子♂余れるところ』(高橋秀実/双葉社)

 日本最古の歴史書とされる『古事記』によれば、男神のイザナキが女神のイザナミに、自分には「成り成りて余れる処」があるから、あなたの「成り合はぬ処」をふさいで国を作りましょうと云ったそうだ。男にとって大事な男根が、最初から「余れるところ」というのは地味にショックな気がする。『日本男子♂余れるところ』(高橋秀実/双葉社)は、男根についてノンフィクション作家の著者が考察した一物、もとい書物である。本書では日本神話の他に、仏教やキリスト教における男根やセックスについての解説もされており、それらはもちろん興味深いのだけれど、様々な文献を調べインタビュー取材を重ねていくうちに、著者自身の男根が勃起しなくなってしまう過程に妙な緊張感があって、手に男根を握るサスペンスのようだ。いったい著者に、ナニが起きたのか。

 明治期から昭和にかけての徴兵検査における項目には男根の長さまであったといい、本書には当時の測定記録が参考に載っている。そして著者も自分で測っていたら、妻が「私が測る」と言い出してメジャーを男根の裏側に当てられた。すると、バランスを崩した男根がポロリとメジャーから落ちたり、余っている包皮がボヨ~ンと下に伸びたりする様子に情けなくなって、みるみる男根が縮んでしまったという。

 自分の男根が他の人と比べてどのくらいの大きさか気になる男は少なくないだろうが、大きいことを自負している男性に取材をしてみると特に良いことは無いとの答え。そのうえ、3万人を超える包茎治療を施術した医師の許を訪ねた著者は、多くの女性にとって快感とは無縁であるとして、男根の長さや太さによる優位性を医学的根拠から否定されてしまう。それは悩める男には福音ではあるけれど、ますます「余れるところ」の実在根拠を問われそうな事態だ。

 すでにこの頃には、いよいよ勃起しなくなってしまった著者に妻は「ハグするだけでも気持ちいい」と、勃起しない夫を肯定する優しい言葉をかけてくれている。しかしそれでは、著者の面子が勃たない。他の女性はどう感じているのかとさらに取材を重ねるのだが、端から無駄だろうと思える女性同士の同性愛者にも取材するあたりは、ノンフィクション作家としての矜持か。そして、男性との関係を持っている女性たちに取材をした著者は、ますます「余れるところ」の存在意義が揺らぐ言葉を聞かされる。私も女性の本音を興味深く読んだものの、もし面と向かって彼女から云われでもしたら男としての勃つ瀬が無くなりそうだ。

 やがて著者は科学ノンフィクションの文献などから、人工授精が一般化すると、「余れるところ」どころか男根が不要になるのではないかとさえ考えるようになってしまう。果たして著者は、再び勃起することができるのだろうか。妻との性交はいかに? 自身の男根を握り締めながら、いや男根を持たない読者にも結末を確かめてほしい。

 それにしても、一冊の中でこれほど「男根」と「勃起」の出てくる本など、今までお目にかかったことが無い。しかも、卑猥な話題が満載なはずなのに通読しているあいだには、まったく勃起しなかった。著者も指摘しているように、勃起は副交感神経が優位なときに起こるものだから、論理的思考をすればするほど交感神経が活性化して勃起を阻害するせいだろう。ナニごとも、考え過ぎは良くないんである。それでも本書に「男根」と「勃起」が何回ずつ出てきたのかが気になって数えていると、最初に読んださいに大笑いした著者のこんなつぶやきに行き当たり、ハッと我に返った。

「何やってるんだろうか? 俺。」

文=清水銀嶺